【第7話:魔道具】

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【第7話:魔道具】

 翌朝、何だか息苦しくてうなされるように目を覚ましました。 「って、フィナンシェ~! あ~な~た~ね~!?」  昨日、フィナンシェの住処(ホーム)を家の中に戻して、ベッドの横に毛布を引いてあげたのだけど、朝起きると何故か私の顔の上に乗っかってスヤスヤと寝息を立てていました。 「「がぅ?」」 「か、カワイイ……可愛すぎる!?」  寝ぼけ眼で頭を傾げるカワイイ姿に、暫し悶絶したのち、朝ごはんの準備を始めました。  先日街で買ってきた日持ちのするパンに、庭で育てているキャベツっぽい何かと自家製羊のチーズを挟み、オハギとカシワから朝一で絞ってきたヤギミルクを温めて出来上がり。 「いただきます」 「「がぅ!」」 「わかってるわよ。今日は後で街に行くつもりだから、それまでミルクと干し肉で我慢して」  本当は私が食べるつもりで買っていた干し肉をあげたのだから、文句言わないで欲しいわ。 「ん? 二枚欲しいの? はいはい。ちょっと待ってね。もう一枚取ってくるから」  見た目は頭が一つだから一枚で大丈夫かと思ったのだけど、もう一枚欲しいとおねだりされてしまいました。 「お金……稼がないといけないわね」  下手に前世の記憶を取り戻してしまったために、今まで特に不満の無かった生活が、凄く貧しく感じてしまいます。 「まさか記憶を取り戻したことに、こんな弊害があったとはね……」  今までの生活でも、なんとか生きていく事は可能だと思うのだけれど、せっかくだから生活を豊かにしたいじゃないですか。  その後、私は食事を終えると、休む間もなくすぐに食器を片付け、羊たちの待つ厩舎へと向かったのでした。  ◆  私が厩舎に着くと、厩舎入口付近が定位置のカシワとオハギの白黒山羊コンビが出迎えてくれました。 「「ぶぇぇぇ~」」 「よ~しよしよし! よしよしよしよし!」 「「ぶぇ、ぶぇぇ!?」」  寄ってきた白黒山羊コンビをわさわさしてやり、満足したのを確認すると、目当ての羊たちのところへと向かいます。満足したのは私の方だとか言うのは誰ですか?  そして、羊たちもわさわさして、また、満足させてあげようとしたのですが……。 「よ~しよしよし! よしよしよ……え、ちょっと待って、ま、きゃ、きゃぁ~!?」 「「「「めぇ~♪」」」」  白いもふもふの波にのまれました……。  数の暴力、恐るべしですね。 「ちょ、ちょっと待って!? あなたたち、どうしたの!?」  はっ!? そうか、羊たちに好かれる(例の能力)のせいか!?  ちょっともみくちゃにされて大変だけど、し、幸せかも……。 「はっ!? ちょっと幸せに飲み込まれて成すがままにされてしまったわ……」  私は羊たちの入っている囲いの柵を外すと、能力を使って牧草地へと誘導するように指示を飛ばします。  ん? ちょっともふもふに囲まれて興奮して気付くのが遅れたけど、やけに毛の質が良かった気がするわ。 「ちょっと待って。あ、あなただけでいいよ」  そう言えば、山羊と違って羊たちには名前を付けてないのよね。  この世界で育った私の元々の感覚だと、山羊はどうやらペット枠で、羊たちは家畜枠だったみたい。  それで、この世界では家畜には名前を付けないのが普通のようです。  でも、こんなカワイイ子たちに名前をつけないなんてありえない!  かと言って、いきなり九八匹分の名前を考えるのは難しいし……。  いろいろ落ち着いて時間に余裕が出来たら、何か方法を考えることしましょう。 「と、そうだった。思考がそれてしまったわ」  呼び止めた一匹の羊の毛並みを確認する。  すると、その羊の毛の質や性能などが頭の中に流れ込んできました。 「え? そう言えば……」  一つ、羊毛を鑑定する能力。 「これのお陰か~」  しかしこれは、新たに得た『牧羊』スキルの能力を何とか調べる方法を考えないといけないわね。  昨日、ケルベロスを牧羊犬として従える事に成功した時に、スキルが一気にランクアップした弊害か、本来なら自然に理解できるはずのものが把握できていないのよね。  スキルによって得た能力は、意識すれば自然と理解できるし使えるのだけれど、あまりにも自然過ぎて、元々持っていた能力と同じように感じるために、それがランクアップによって新たに得た能力だと気付きにくいみたい。  それが一度に大量の能力を得たせいで、何が元々の私の能力なのかがわからなくなっている状態だったり……。  まぁ一つ一つ意識すれば認識できるし、能力の内容もわかるのだけど、これはちょっと盲点だったわ。 「まぁ今は、全体の能力の把握は置いておくとして……これって、明らかに今までよりも毛の質が良くなってるわね」  羊毛の鑑定能力もだけれど、きっと何か……ん? これかしら?  一つ、羊毛の質を上げ、性能を上げる能力。  ついでにこんなのも見つけた。  一つ、羊毛の刈り取り量をアップさせる能力。 「今日、街に行くつもりだったし、いくらか刈り取って売ってみようかしら? あ、ごめんね。先にご飯だよね。もう牧草食べに行っていいよ。ありがとね」 「めぇ~♪」  私は羊たちがみんな食事を始めたのを確認すると、後をついて来ていたフィナンシェと一緒に一度家に戻り、羊の毛を刈り取るための道具を取りにいきました。 「これって、どう見てもバリカンだよね?」  この世界には酪農系スキル以外にも様々なスキル体系が存在します。  前世の異世界もの定番の、戦闘系スキルや魔法系スキル、生産系スキル以外にも、商業系、農業系、研究系スキルなど、スキル体系だけでも多くのものが存在しています。  その中には、魔物が体内に持つ魔石を動力に使う魔道具と呼ばれる魔法の道具を作りだすような、そんなモノを創りだす能力を持つスキルがいくつも存在しています。  そのためこの世界の生活レベルは意外と高く、一部前世に匹敵、いいえ、凌駕するような便利な道具までもが存在していたりします。  そして、今私が持つこのバリカンそっくりな道具も実は魔道具で、ちょきちょきする手動ではなく、スイッチを入れると自動で動く電動バリカンならぬ魔道バリカンなのです。 「今日はお試しだし、ささっと一、二匹だけ毛を刈り取ったら、街に出かける事にしましょうか」
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