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【 第五話: 見ちゃダメ! 】
それからというもの、私は時夢くんと毎日学校の行き帰りに会うようになった。
その時の私は、彼に気に入られようと、必死だったと思う。
それまで気にもしなかったのに、一度も付けたことがないママの使っている香水を付けたりして、彼と一緒に学校へ行ったんだ。
ちょっぴり、大人になったような気分で……。
「あれっ? 岬ちゃん、今日、何かいい香りがする」
「あ、う、うん。ちょっと、ママの香水付けてみたの……」
彼はこの香りに気付いてくれた。
「いい香りだけど、岬ちゃんが何も付けていない時の香りも、僕好きだけどな」
「えっ? そ、そうなの……?」
(時夢くん、私の香り好きなんだ……)
「うん。僕、岬ちゃんの香り大好きだよ」
「えっ? だ、大好き……? 私の香り……?」
「うん。大好きだよ。何だか、やさしいミルクのような香りがする」
(もう~、朝からそんなことを言われたら、私、また顔が赤くなっちゃうよ~。でも、やさしいミルクのような香りって、まるでお母さんのような感じ……?)
私は恥ずかしさに、両手でほっぺを覆う。
「岬ちゃん、どうしたの? また顔が赤くなっちゃってるけど」
「だって、時夢くんが……」
「あははは、岬ちゃんは分かりやすくて、かわいいね」
「もう~、またからかってるでしょ~」
「あははは……」
朝の太陽の光に、彼の眩しいほどの笑顔から、輝く白い歯がこぼれた。
私は、時夢くんが……、好き……。
――学校では相変わらず、つまらない国語の授業を受けて、分からない数学の授業を受け、聞きたくないもない英語のレッスンを受けていた。
私は、また時夢くんが現れないかな~と思いながら、ぼんやりとした1日を過ごしていた。
そして、授業が終わり、今日は時夢くんが現れなかったなぁと、テニス部の部活の練習をするために、テニスウェアに着替えて、泣く泣く練習を開始する。
すると、何故か、テニスコートの金網の向こうに女子たちが視線を向けていた。
その視線の先をよく見ると、それは――、何と――彼だった。
「(た、時夢くん……? どうして、部活の練習を見に……?)」
すると、加奈が近づいて来て、こう言った。
「ねぇねぇ、岬! 彼来てるわよ!」
「えっ、あ、ああ、そうみたいね……」
「ねぇ、彼、岬のことを見に来たんじゃない?」
「えっ、たまたま通りかかったんじゃないかな……?」
私は恥ずかしそうに、彼の方をチラッ、チラッと見ながらも、テニスの練習をし始めた。
彼は私に気付いたみたい。
彼の視線を感じる。こちらへ近づいて来ているよう。
「(えーっ! うそぉーっ! 時夢くん、こっちに来るーっ!)」
すると、彼は私の練習している後ろまで来ると、金網越しに声をかけてきた。
「岬ちゃん!」
「あっ、た、時夢くん……。こんにちは……。来てたの……?」
「うん。岬ちゃんのテニスの練習見に来た」
すると、周りの女の子たちもザワつき始めた。
「(ねぇ、彼、背が高くてイケメンね)」
「(そうね、爽やかでかっこいい)」
「(彼ね、どうも、岬のことを見に来ているみたいよ)」
「(えー、そうなの。何で岬なの? あんなかっこいいイケメンが)」
私は恥ずかしかった。
周りの女の子たちが、私と彼を見てヒソヒソと話しているのが分かったから……。
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