【 第五話: 見ちゃダメ! 】

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 でも、時夢くんは、周りの女の子を気にすることもなく、お構いなしに私にこう続けた。 「岬ちゃん、テニス出来るんだね」 「わ、私だって、ちゃんと練習しているから……」 「岬ーっ、いくわよーっ!」 『パァーン!』  サーブが私目掛けて飛んでくる。 「あっ!」  ラケットは、ボールを打ち返すことなく空を切る。 「岬、どうしたのーっ! そんな球も取れないのーっ!?」 「あっ、ご、ごめん!」  私は打ち返せなかったボールを、金網まで取りに行く。  その時、金網越しに時夢くんは、私にこう言う。 「岬ちゃん、今のサーブ、取れなかったね」 「と、取れるもん! 次は、ちゃんと取るから!」  そして、再び身構える。 「岬ーっ、いくよーっ!」 『パァーン!』 「あっ! あれっ?」  また私のテニスラケットが空を切る。 「岬、どうしちゃったのーっ! ちゃんと打ち返してよねーっ! 練習にならないからーっ!」 「ごめーん! 分かったーっ!」  後ろで時夢くんが追い討ちを掛ける。 「やっぱり、取れなかったね。岬ちゃん」 「もう~、岬だって、ちゃんと取れるもん!」  でも、何度やっても同じだった……。  私は、日頃ちゃんと練習をしてなかったツケが回っていた。  しかも、彼に見られているというプレッシャーから、体が全く動いていなかったのだ。  時夢くんから見たら、多分私はずっと素振りの練習をしていたとしか見えないだろう……。  この日、私はまともに練習できずに、散々な状況の中、部活を終えた……。  彼は私が着替え終わると、校門のところで私をいつものように待っていてくれる。 「岬ちゃん、お疲れ!」 「た、時夢くん……」 「初めて、岬ちゃんのテニスしているところを見た」 「きょ、今日は、ちょっと調子が悪かったの……」 「それで、サーブが1つも取れなかったんだね」 「もう~、それは言わないで……。今日は体が硬かったの……」  時夢くんに私の運動音痴なところを見られてしまった。  私は、この頃、部活を真面目にやっていなかったから、あまり上達していなかったんだ。 「僕がリラックスする方法を教えてあげるよ」 「えっ? リラックスする方法?」 「うん。まずね、上を向いて手を広げて、深呼吸をして、息を吐いたら、手を胸に当てて目を閉じてごらん」 「上を向いて手を広げて、深呼吸をして、息を吐いたら、手を胸に当てて目を閉じる?」  時夢くんに言われた通り、体を動かしてみる。 「そう、どう? 何かリラックス出来たでしょ?」 「うん。何かちょっと気持ちが楽になったような気がする」  すると、時夢くんが言った通り、不思議と体がリラックスしたように感じた。  何か魔法にでもかかったような気分で。
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