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私は、校門の壁に背を向けた状態でしゃがみ込み、膝を抱えて泣いていた。
――すると、どこからか彼の声が聞こえてくる。
「……岬ちゃん」
「えっ? 時夢くん……? どこ……?」
私は周りをキョロキョロと見渡す。
「岬ちゃん、ここだよ」
「えっ? どこなの? 時夢くん……」
周りを見ても、彼の姿はどこにも見当たらない。
「だから、すぐ上にいるよ」
「えっ?」
私が振り返って上を見ると、時夢くんは、校門の上にちょこんと座って、私を見つめていた。
「た、時夢くん……」
「あはは、岬ちゃんは視野が狭いな。それじゃ、サーブも打ち返せないよ」
「う……、う、う、うわぁ~ん!」
時夢くんは、校門の上から飛び降りて、泣いている私に駆け寄ると、私の頭をやさしく撫でた。
「時夢くんのバカ~、うわぁ~ん……」
私は時夢くんの胸の中へ飛び込んで、思いっきり甘えて泣いた。
「ごめん、ごめん……」
「ううぅぅ……、私、心配したんだから~……」
「ごめんよ、岬ちゃん」
「ずっと、この上にいたの~?」
「うん、ずっと、ここの上にいた。岬ちゃんの慌てる姿、ずっと上から見てた」
「時夢くんのいじわる~。うわぁ~ん……」
「ごめんよ、まさかここまで気付かないとは思わなかったからさ」
「ううぅ~ん……」
私は彼のシャツを握り締めて、顔を胸に埋めて涙していた。
彼がこのままどっかに行っちゃう気がしたから……。
彼は私の方を見ると、頬に流れた涙をやさしく指で拭ってくれた。
そして、私を抱き寄せると、彼の大きな胸と長い腕でギュッと抱きしめてくれた。
彼は私の髪を撫でながら、やさしくこう言ってくれる。
「大丈夫、岬ちゃん。僕はどこへも行かないよ」
「ありがとう、時夢くん……」
私は彼の背中に手を回して、彼の大きな胸に顔を埋めた。
「うわっ! み、岬……、時夢くん……」
「やあ、加奈ちゃん」
「あっ、加奈……」
私は慌てて涙を拭いながら、時夢くんから咄嗟に離れた。
「お、お取り込み中のようですね……。私、先帰るね……、じゃあね……」
「加奈ちゃん、バイバイ」
「か、加奈……、またね……」
加奈に恥ずかしそうに手を振る。
さすがに、親友の加奈に、時夢くんとくっついているところを見られちゃうと恥ずかしい……。
加奈は多分、私たちが恋人とでも、勘違いしてしまったんじゃないかって思う。
「見られちゃったね。加奈ちゃんに」
「う、うん……」
私は右手の人差し指を咥えながら、赤くなった顔を内輪代わりにした左手で、一生懸命に扇いで冷ましていた。
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