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あれから数ヶ月が経ったある日。得意先からの帰り道で信号待ちをしていると、僕のすぐ隣に見覚えのある女性が立っていた。
「えっ?」
それは、紛れもなく加奈子サンだった。
でも、彼女はAIのはず。この世にはいない――でも、見間違うわけがない。だって、僕がプレゼントしたバッグを提げている。それが何よりの証拠だ。
声をかけようか散々悩んだ末、悲しき出費の恨みが僕を突き動かした。
「あのぅ……清水サン、清水加奈子サン、ですよね?」
後ろめたさから逃げ出したり、悲鳴をあげたりするんじゃないかと心配したが、予想を裏切るように「あっ、裕也サン! 久しぶり!」と、彼女は笑った。
その笑顔はあの時と変わらず、僕の心と体を一瞬にして虜にした。
「久しぶり!」、その瞬間、彼女から受けた仕打ちを許してしまった自分に気づいた。
その日、僕は彼女とデートをした。
デート?
ウィンドウショッピングと思いきや、彼女にねだられ、高級なコートやら靴やらを買ってしまった。彼女に腕組みなんかされたら、誰だって同じことをしていただろう。
もっと一緒にいたいという願望が見透かされてか、彼女の提案でレストランに。
ただのレストラン? まさか。彼女が希望した、巷でも有名なMという名の高級レストランだ。
気づけば財布の中身は空っぽ。クレジットカードを振り回す始末。
肩を落としながら、帰りの電車に揺られていると、ふと、スマートフォンの画面に映ったニュース記事が目にとまった。
『オンラインパーティーの詐欺グループはAIロボットも駆使し、その後も犯行を続け、オフラインでも被害が続出――』
ロボット?
そうか、彼女はロボットだったのか。またしても一杯食わされた。どうせなら幻想のままいて欲しかった。モテない男の弱みにつけ込むなんて……。
飲み慣れないワインの酸味だけが、口内に残った。
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