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本田 正次郎(68歳)
人類消滅3日前
「キヨさん、今何時だったかな?」
「もうすぐ14時になりますよ」
「そうか、もうそんな時間になるか。」
「さっきのテレビの事は・・・本当なんですかね?」
「今更騒いだ所で何も変わりゃせんよ。どうせ先も長くない年だ。ここまで生きてこれた事を誇りに思うわな」
「そうですね。」
「おじいちゃん!おばあちゃん!遊びに来たよー!」
玄関から孫の元気な声が聞こえてきた。
「突然お邪魔します。どうしても海斗がおじいちゃんとおばあちゃんの所に行きたいって言うもんですから。」
娘の佳代子が後から入ってきた。
「いいんですよ。何もする事なんてないもんですから。」
娘の佳代子とキヨが楽しそうに話をしている。
「おじいちゃん遊ぼー!」
「よーし!海斗!今日は何して遊ぶか?」
「おじいちゃんと公園に行きたい!」
「公園か!よーし!早速支度をしよう!」
正次郎と海斗は元気よく外へ出て行った。
「佳代子さん・・・朝のテレビの事・・・。」
「私は大丈夫です。本当に・・・好きな人と結婚して、海斗も産まれて、何不自由なく暮らしてきました。ただ・・・海斗には・・・もっといろんな物を見せてあげたかった・・・大きくなる海斗の姿を・・・見ていたかったんです。」
泣き崩れる佳代子の背中を、キヨは優しく撫でていた。
一方その頃、正次郎と海斗は公園の砂場で遊んでいた。
「おっ!海斗は砂遊びが上手だな!これはお城か?」
「そうだよ!だって僕大きくなったらマンガ書く人になりたいんだ!」
正次郎の胸にグサリと何か鋭いものが突き刺さった様に痛んだ。
「そうか。」
「そうだよー。ヒーローがすっごくかっこいいんだ!僕も描ける様になりたい!」
正次郎の目からは涙が流れた。
「おじいちゃんどうして泣いてるの?」
「・・・なんでもないんだ。海斗ならきっとなれるさ!そろそろ行くか!美味しいご飯が待ってるぞ。」
「うん!僕お腹すいたー。」
手を繋いで二人は家へ向かった。
「ただいまー!」
「おかえりなさい!今日は海斗が好きなオムライスよ。早く手を洗ってきなさい。」
「わーい!やったぁー!」
「じゃー海斗おじいちゃんとお風呂に入ってくるか!」
「うん!入るー!」
「ほんと仲良しなんだから。」
佳代子は笑いながら言った。
「良いじゃないの。おじいさんもあのお陰で若返りしてるんだから。」
佳代子とキヨは顔を合わせて目が合うなり、クスクスと笑っていた。
「お父さん!今晩泊めてもらう事にしたから。」
「おーそうか!」
「やったー!今日僕おじいちゃんと一緒に寝るー!」
もう何も思い残す事はないと思っていた正次郎。
こんなにも愛おしく、こんなにも幼い子の命を失ってしまうなんて。
そして、こんなにも愛する家族が、自分が、後数時間に消えてしまうなんて。
正次郎はそっと部屋を出て、玄関の扉を開けて、オレンジ色の夕日に染まり、いくつかの星が散らばった空を見上げ、大粒の涙を流し、祈りが届くなら神様どうか救って下さいと静かに祈った。
地球の消滅まであと29時間。
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