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後藤 真矢(20歳)
「マジでだるいわ。殆どの店もやってねーし。真矢どうする?」
「ごめん、特に何も考えてなかった。」
友達の美樹が怠そうに話しかけてきたので、私も怠そうに返事をした。
私は18歳の時に家を飛び出し、それきり親とは連絡を取っていない。
親も私を探そうとはしなかった。
朝のニュースを見た。
突然の出来事ではあったけれど、特に何も感じていなかった。
私には失うものもない。
この先やりたい事もなかった。
「よし!じゃー私は行くわ。」
美樹が突然立ち上がって言った。
「え?どこに?」
「どこにって、家族の所だよ。朝のニュース見たでしょ?」
意外だった。
美樹も私と同じように家を出て、私とアパートで同居していた。
家族とは無縁だと思っていた。
「そっか。」
「真矢も最後くらい家族に会っておいたら?」
「無理だよ、今更。どんな顔してあえばいいのかも分からないし。きっと何しに来たって冷たく言われるだけだよ。」
「ふーん。そんな事ないと思うけどな。まぁでも真矢が決める事だからね。それじゃ行くね。」
「うん。バイバイ。」
遠くなっていく美樹の姿を見つめながら、何だか急に寂しい気持ちが出てきた。
街中を一人でフラフラしていても何もする事もなく、殆どの人達は家族と残りの時間を過ごしているのだろうか?
いつもなら大勢の人達で賑わう街も、静まりかえっていた。
一人アパートに着いた私は、何気なくしまっていたアルバムやプリクラなどを取り出した。
そこにはまだ幼い私と、若い頃の父と母がうつっていた。
私が中学生の時、15の時に歳の離れた弟も出来て家族4人暮らしだった。
高校の時にいわゆる不良とつるむようになってから、親に反抗し遊んでばかりで、ある日親とケンカをした時、私の頬を父に叩かれた事をきっかけに、そのまま家を飛び出した。
今冷静に思えば私が悪かった事は分かっている。
けれど、時間が長く経ってしまった分、今更親の所に戻る事も出来なくなってしまっていた。
アルバムを1ページずつ捲る度、涙が零れた。
「ごめんね、お父さんお母さん、優希。私・・・もう・・・皆んなに会えないや。」
涙でくしゃくしゃになった顔でそう呟いた。
「ガチャン」
ポストに郵便物が届いた。
郵便物を取ると、一通の茶色い封筒だった。
封筒を開けると中には手紙が入っていた。
その文字を見て、私はすぐに母からだと気付いた。
【真矢へ。あの日依頼一度も真矢の顔を見る事が出来ず、今はどんな顔をしているんだろうと心配な毎日を過ごしています。お父さんは強がって心配していないフリをしていますが、本当はそんな事はありません。いつか帰ってくるんじゃないかとずっとずっとあなたの帰りを待っています。あなたの今住んでいる住所は、美樹さんという方からお聞きしました。元気にやっている事を聞き、すごく安心しました。良い友達をもったね。1日でも早くあなたに会いたい。母より】
「お母さん・・・美樹ありがとう。」
溢れ出す涙を何度も何度も拭い、そして私は支度を始めた。
携帯、サイフ、必要最低限の物だけを急いで準備をして、私は駅へと向かった。
あっという間に終わる世界。実家までの長い長い時間がすごくもどかしかった。
地球の消滅まであと29時間。
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