後藤 美咲(6歳)

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後藤 美咲(6歳)

「美咲ー!こっちこっち!」 「ママー!!」 母親の佳代子と娘の美咲が公園で走り回る姿を、父親の拓海がビデオカメラを回していた。 「そろそろお昼にしよう!」 拓海がそういい、風呂敷を広げ、佳代子の手作りのサンドウィッチを皆で食べていた。 「ママ美味しいね!」 「ほんとー?ありがとう!」 「ママの作ったサンドウィッチは世界一だな!」 「拓海さんそれ褒めすぎ!」 「いや本当だって!」 「パパ今日はお仕事いかないのー?」 「パパ今日お仕事休みなんだぞー。明日もお休みだから皆一緒だよ!」 「やったー!パパとママと3人でいるとすっごく楽しいー!」 「よかったわね美咲!ほらこっちも食べて。」 「うん!」 家族の楽しい姿。 朝のニュースがなければ、本当に幸せな家族の時間だった。 残された時間を、美咲の為にいっぱい楽しい事をしてあげようと、拓海と佳代子で決めたのだった。 「よし!美咲!これ食べ終わったらパパとドッヂボールするか?」 「うん!やるー!」 「もう二人ともご飯食べたばかりなんだから気を付けてね。」 「わかってるわかってる!大丈夫だよな!」 「大丈夫!ママもやろー!」 この幸せな時間がずっと続けばいい。 そんな事を思ってももうどうにもならない。 もどかしい気持ちが込み上げてくるけれど、今は精一杯美咲も、佳代子も笑顔でいてほしいと拓海は思っていた。 「そろそろ帰りましょうか。夕飯の支度もあるし。」 「美咲ー!そろそろ帰るよー!」 「はーい!」 「美咲は今日は何が食べたい?」 「んーとねー!ハンバーグ!」 「ハンバーグか!よーし!じゃー今日はハンバーグにしよう!」 「やったぁー!」 その時は刻一刻と迫ってきている。それでもとにかく明るく、明るくと思っていても不安は募っていた。 家に帰ると佳代子は夕飯のハンバーグを作る準備を始めた。 「美咲パパと先にお風呂入ろうか!」 「うん!入るー!」 美咲の笑い声、シャワーの音、風呂の温かさ。 あれがなければなんて幸せなんだろうと虚しく感じていた。 美咲と浴槽に浸かり、大きくなったなぁと岬を見ていた。 「ねぇパパ?」 「ん?どうした?」 「・・・パパは今日どうしてお仕事お休みだったのー?」 「・・・家族みんなで一緒にいたかったからだよ?」 「なんで?いつも一緒にいるよ?」 「そうなんだけどさ。今日はみんなで長く一緒にいたかったんだよ。」 「ふーん。そうなんだ。パパとー、ママとー、美咲の3人でずーっと一緒だよ!明日もー、その次もー、その次の日もー、ずーっと一緒!」 無邪気な笑顔でそう話す美咲に、半分泣いて半分笑顔で、 「そうだね。」 と一言しか返せなかった。 「パパ何で泣いてるのー?」 「泣いてなんかないよ!」 「えー!泣いてたよー!」 「泣いてないってば!」 そう言って悲しみを紛らす為に、美咲をくすぐって笑わせた。 そして風呂から上がると、夕飯が出来ていた。 「やったぁー!ハンバーグだー!」 「随分とお風呂楽しそうだったじゃない?」 佳代子が笑いながらそう言ってきた。 「楽しかったよねぇ美咲!」 「うん!楽しかったよー!」 「パジャマ着てご飯食べよ!」 パジャマに着替え、家族3人で食卓を囲んだ。 「いっただきまーす!」 「いっぱい食べてね」 「はーい!」 「あっそうだ!」 そう言うと突然佳代子は冷蔵庫へと向かった。 「実は今日はね、こんなのもあるのよ」 「わぁー!ケーキだ!ママどうしたのこれ?」 「今日はねー記念日なの!」 「私誕生日まだだよー?」 「俺たちの結婚記念日でもないよな?」 「今日はね。パパとママが出会った日も、結婚した日も、美咲が生まれた誕生日もぜーんぶひっくるめて今日記念日をするの!」 俺はすぐにわかった。 明日が来ればもうどの記念日も迎える事なく全てが終わってしまう。だから今日を全ての記念日に佳代子は選んだんだ。 「よぉーし!今日は記念日だ!美咲いっぱい食べていっぱい楽しもう!ママワインも開けちゃおう!」 「もう拓海さんたら」 幸せだ。 そう感じた。これだけの笑顔に包まれて、俺は本当に幸せだと、本当に心から実感した。普段何気なく一緒にいる分気づかなくなっていたけれど、その気持ちにやっと気付く事が出来た。 「パパ、ママ、また記念日やろーね!」 「そうだな!またやろうな!」 美咲ははしゃぎ疲れ、割と早くに眠ってしまった。 その寝顔を見ながら、佳代子は美咲の頭を撫でていた。 俺もその隣に座った。 「美咲は・・・何もわからないまま明日を迎えるのね」 「・・・そうだな。難しいよな。本当の事を美咲にも言えば、きっと明日が怖くなってしまう。でも言わなかったら、明日突然全てが終わってしまうんだ。言いたい事も、やりたい事も何もしないまま。」 「明日・・・美咲にも教えてあげましょう。」 「・・・そうだな。」 「拓海さん・・・私怖い。明日全てが終わってしまう。こんな小さな命も終わってしまう。でももうどうしようも出来ない事をわかってるんです。それでも、それでも・・・」 「俺だって怖いさ。こんな大事な家族と別れたくない!」 俺と佳代子は抱きしめ合い、そして言葉にならない思いを涙で語り合った。 声が枯れるまで、泣き疲れるまで、俺と佳代子は強く抱きしめ合いながら泣き続けた。 どうか明日が来ない事を願って。 地球の消滅まであと29時間。
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