チョコレートなのに、甘くない

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 一年に一度きりの、特別な日。  大好きなあの人にチョコレートを贈りましょう。  そんな謳い文句に、珍しく乗っかってみたわけで。  二月十四日──バレンタインデー。  放課後の教室で君と二人きり。机を挟んで向かい合って座る。  俺の手には、どこかで見たことがあるようなプリントが施されたデザイン缶。目の前には、大切な恋人である月冴の姿。その月冴の表情が少しだけ引きつっている。 「今日は好きな人にチョコを贈る日だって聞いたから」 「そう……だね」 「貰ってくれる?」 「う、うん……せっかく尚斗が選んでくれたんだもの」 「よかった。ちょっとクセはあるけど美味しいから」 「そう……なんだ?」 「うん。せっかくだし、いま食ってみる?」  テープ留めを綺麗に剥がして蓋を開けると、中には円を描くように八等分されたチョコレートが綺麗に詰まっていた。その一欠片を摘み上げ、月冴の口元へと運ぶ。恐る恐る開かれる、桜色の小ぶりな唇。  舌先がチョコレートの先端に触れ、ゆっくりと一口含んで前歯がそれを噛んだ。  しばしの沈黙が場を支配する。  チョコを咀嚼した月冴の眉間に徐々にシワが寄りはじめ、嚥下と同時に得も言われぬ顔で俯いた。  少しだけ首を傾げた、その矢先。 「あっ……ん、甘い……? え? あっ……かっらっ!!」  ワタワタと宙を彷徨った月冴の手が、机の上のペットボトルを勢いよく掴む。口に含んだ量はほんの僅かだったし大丈夫かと思いきや、そうでもなかったようだ。  半分ほど残っていたミネラルウォーターを全て飲み干さんばかりの勢いで口にするそんな姿を目の当たりにして、やはり流行りになど乗るものじゃないな、と改めて思う。  いや──そもそも選んだものがまずかったのか。 「タバスコチョコは、バレンタインには不向き──と」 「……来年は普通の板チョコでお願いします」 【チョコレートなのに、甘くない_Fin】
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