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『苦手もいいけどたまには恋人らしいこと、してみたら?』
そんな風に言う龍之介の提案にまんまと乗せられ、早朝バイトを終え学校へ向かう道すがら立ち寄ったコンビニ。
普段は素通りするだけの菓子類が陳列された商品棚の前に立ち、さて一体なにがいいものかと犇めくパッケージを薄ら目で眺める。
二月十四日──バレンタインデー。
好きな相手にチョコレートを贈る日だとかで流行っているらしい。
が、いまのいままで縁がなかったのにいきなりやれと言われても戸惑うだけだ。菓子なんて滅多に食べるものでもないから、なにが美味しいとか流行りだとか、そういうのはさっぱりわからない。
それに、渡す相手が相手だ、量だって必要ない。
何気なく伸ばした指先は箱物を辿るように横へと滑り、銀色のフックに引っかかっている小袋を掴んだ。
幾分か大きめの書体で書かれた『コンビニ限定』の文字。白地を基調にしたパッケージそのものは、見慣れた動物の形をしている。
「これでいいか」──深く考えることなく手にしたそれを持ってレジに行き会計を済ませると、そそくさとスクールバッグの中に落としてコンビニを後にした。昇降口で上履きに履き替え、いつものように保健室に向かう。
開き慣れた引き戸を開ければ、そこには見慣れた人の姿。
「おー、秋月。おはようさん」
聞き慣れた声、聞き慣れた挨拶。ゆったりと揺れる瞳は、今日も優しい色をしている。
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