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エピローグ
天気予報では、梅雨明けが宣言された。
あの日以降、夢屋は明かりが灯っておらず、店を閉じているようだった。
彼の夢も見ることはなくなった。
私の日常は、以前と変わらず図書館を行き来する毎日だった。
たまに大熊さんは見廻りと称して図書館にやってきては、吉永さんとオススメの店の話をしていた。
相沢さんは他の事件のことで毎日忙しくしているようだが、頻繁に連絡をくれ、私のことを心配してくれているようだった。
今日もあっという間に一日が終わり、夕陽が沈んで外は暗くなっていく。
「あと5分で閉館のお時間となります。
貸出、返却がお済みでない方は、カウンターまでお持ちください」
館内に吉永さんのハキハキとした綺麗な声が響き渡った。
アナウンスを聞いて貸出手続きをする人が急に増える。
カウンターの前には5〜6人の列が出来て、「もう少し余裕を持って借りてくれたらいいのに」と思ってしまう。
それでも、借りる人の顔を見て「この本が読む人にとって特別な一冊になりますように」と願いながら一冊一冊丁寧に本を手渡す。
最後の1人。
「すみません、これ返したいんですが」
一冊の本が差し出された。
それは、私が彼に貸していた本だった。
裏表紙を見ると、何故か焦げたように黒くなっている箇所があった。
「今井くん……」
ハッと顔を上げると、私の前に目を醒ました彼が立っていた。
その力強い目で私をしっかり見つめながら、優しく微笑む彼。
10年前の彼の面影と夢で見た彼の面影が重なって見えた。
逢いたくて、逢いたくて、何度も夢に見た。
「夢から醒めて一番逢いたい人」。
その後ろには翔くんが今にも泣きそうな笑顔で立っているのが見えた。
全ては現在この時のために繋がっていたんだ。
私はこの世界を今までで一番、愛おしいと思った。
END
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