25人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
あの日以降、私は何度も夢を見た。
燃えていく学校の図書室で1人佇む彼の姿を。
彼は、周りに対して無関心、冷徹で何を考えているかわからない、そして、考え方も少し捻くれていた。
けれど、図書室のカウンターから彼と眺める紫陽花が好きだった。
隣の彼は、まるで大切な誰かをそっと見守るかのように優しい表情で紫陽花を見ていた。
そして、時折見せるどこか諦めているような彼の暗い目は、私の胸をギュッと掴んで締め付けた。
それは恋とか愛とか単純なものではなかった。
彼はいつだってどこか遠くを見つめていて、現在なんてどうでもいいって顔をしていた。
ふっとロウソクの日が消えるようにいつのまに私の隣から姿を消えてしまう、そんな気がして怖かった。
だから、
あの日、燃えていく図書室で何かを見据えた力強い彼の目を見た時、私は何も言うことはできなかった。
彼はずっと前からこうなることわかっているようだった。
ーあれから10年
25歳になった私は、再び炎に包まれた図書室を見つめながら、その日のことを思い出していた。
遠くで消防車のサイレンが聞こえる。
私たちはそれぞれの思いを抱えながら、その炎が消えるまで目の前の光景をただ見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!