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それは、バレンタインデーの二週間前のことだった。
放課後──私がいつものようにルンルン気分で化学部を訪れると、部室に使っている特別教室の中から妙にピンクな気配が漂っていることに気がついた。
普段、化学部は私、高校一年生の田宮あすかと、部長で一年先輩の水上樹しか使っていない。
春には女子がたくさん在籍していた化学部だが、一人辞め、二人辞め、と退部が続き、夏が来る前にはとうとう私一人だけになってしまった。
原因は分かっている。部長のエキセントリックすぎる性格のせいだ。
何しろうちの部長ときたら三度の飯より化学好き。化学のためなら地の果てまでも。恋愛<化学=部長の数式が完璧に成り立つほどの化学オタクで、女の子への興味なんて一切なし! な人だから。
ご尊顔は整いすぎるほど整っているのに、変人すぎて女の子が寄り付かないなんて、もったいないことだ。
まあ、部長のことを密かに想いつづけている私にとっては、ありがたい環境だけれど。
……と思って油断していたのに。
「お願いします、水上部長!」
「私も、ぜひ!」
いつもの部室に、溢れる複数の女子の声。
これはいったい、何事ですか⁉︎
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