惚れちゃうチョコの作り方

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 来たるバレンタインデーに手作りチョコを渡す予定なのだが、本命に渡すチョコの中に惚れ薬を入れて恋を成就させたい。  部長を取り巻いていた女子の先輩たちの話をまとめると、どうやらそういうことらしかった。 「水上くんなら媚薬くらい簡単に作れるんでしょ? お願い、バレンタインまでに薬を作って、私たちにちょうだい!」 「確かに、媚薬の作り方ならいくつか心当たりがあるが」  あるんだ。さすが部長。  媚薬なんておとぎ話の中にしか存在しないものだと私は思っていた。 「最初に言っておくが、効果には個人差があると思う。あとで効いた効かなかったで揉め事を起こさないことを約束してもらえるか?」 「うん!」 「さすが水上くん、頼りになる!」  部長の肩を気安く叩く先輩に、私はつい唇を尖らせてしまいたくなった。 「部長、本当に媚薬なんて作れるんですか?」  団体が去ったあと、やっと二人きりになった部室で、私は部長にこっそりと尋ねた。 「作れるよ。イシュタルやジプシーの惚れ薬なんてものは有名で、ネットに作り方まで書いてあるくらいだ。材料さえ揃えば調合は簡単なものだし……正直、俺が作るまでもないという気がする」   部長はあまり気乗りしていないようだった。作り方が分かっている、いわば誰かの手垢がついているものをなぞる作業に魅力を感じないのだろう。 「それに、問題なのはやっぱり個人差なんだ。効くか効かないかは飲んでみるまで分からないという曖昧さがどうにも科学的じゃない。観察し、仮説を立て、実験し、結果を元に考察するのが科学だからな。確率論で有効とみなされても失敗の可能性があるものを堂々と薬と謳っていいものか」  部長の真剣な顔を見ているうちに、さっきまでの尖った気持ちが私の中から消えていくのが分かった。  大勢の女子に囲まれても、ブレない化学愛。  それでこそ部長だ。 「何をもって成功とするかが問題だな。ここはやはり……実例を出すしかないか」  部長はそう言って私の顔を見た。部長のマジ顔が大好物の私は、部長が私を見つめる意味に気が付かず、愛想笑いでつい小首を傾げてしまったけれど──その笑顔は次の部長の言葉ですぐにぶっ飛ぶことになった。 「そういうわけだ、田宮くん。君、惚れ薬を飲んで俺に惚れてみてくれないか」  
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