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テストの結果、肌の色に変化がなかった私はお酒に強いことが判明し、惚れ薬を飲んでも大丈夫だと証明されてしまった。
「それじゃあ材料を揃えて調合してみる。協力頼むよ、田宮くん」
「はい……」
不安を抱えつつも、私はうなずいた。
そしてそれから三日が経ち、とうとう部長の惚れ薬が完成した。
「さあ、田宮くん。飲んでみてくれ」
放課後、さっそく部室に呼び出された私は、部長から香水の小瓶のようなものを受け取った。
オシャレなその容器には、何やら赤い液体が入っていた。蓋を開けると、パンケーキのような甘い香りや薔薇のような上品な香り、その他どこかで嗅いだ事のあるいい香りが液体の中で複雑に混ざりあっているのを感じた。お酒もきっと入っているのだろう。表面はトロトロとして艶があった。
すごく美味しそう。それに、すごく効き目がありそう。
今までに部長が作ったものは用途こそ「?」なものが多かったけど、その効果だけはいつも抜群だった。
今度もきっと何かが起きるはず。
「で、では……いただきますっ!」
私は覚悟を決めて瓶の中の液体を一口飲んだ。
濃厚そうなイメージがあったけど、液体は意外とすぐに口の中で溶けた。鼻を抜ける時にほんの少しオレンジが香る。後味はすっきりとしていて爽やかだ。
ジュースとしては完璧に美味しい。
でも……残念ながら、それだけだった。
胸が急にドキドキするとか、眩暈がするとか、そんな効果は何もなし。
「どうだ、田宮くん。俺を見て何か感じるか?」
期待に目を輝かせた部長が私に尋ねる。
どうしよう⁉︎
部長の期待を裏切りたくない。でも、嘘なんかついたりしたら部長はもっと傷ついてしまうんじゃないだろうか。
正直に「効いていません」と言うべきか。
それとも嘘をついて「効いている」と言うべきか。
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