35人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
──数日後の二月十四日。
「部長っ」
放課後、私はいつもの化学部で、一生懸命綺麗にラッピングしたチョコを「はい」と部長に差し出した。
「これはなんだ? 田宮くん」
「やだ、部長ってば。今日はバレンタインデーですよ?」
「ああ、そうだったっけ」
部長は惚れ薬を作っていたことなんかすっかり忘れたような顔をして、次の研究のネタを考えていたようだった。私が差し出したチョコを見て、部長は「手作りか?」と少し頬をほころばせる。
「ありがとう。家でゆっくりいただくよ」
「あ、あの! 今、ちょっとだけ食べてくれませんか?」
部長は不思議そうにまばたきをしたが、すぐに「いいよ」とうなずいて、ラッピングを解いた。
大きなハート型のチョコが現れる。その丸い曲線の部分を、部長がひとかじりした。
「うん。悪くない味だ」
「それだけですか?」
私はいつの間にか祈るように両手を握り合っていた。
実は、私が作ったチョコの中には、部長が作った例の惚れ薬が入っている。本命チョコを作る直前に相手に恋人が出来たと言って、惚れ薬が一つキャンセルされて私の手元に戻ってきていたのだ。
私には効かなかったけど、もしかしたら部長には効くかもしれない。
せっかくだから、試してみたい──というわけで。
「ど、どうです? 何か、感じません?」
私は上目遣いでドキドキしながら部長に尋ねた。
すると。
「田宮くん……」
「はい、部長……」
部長がゆっくりと近づいて、私の顔をじっと見つめて言った。
「今日の君は、なんだか可愛いな」
最初のコメントを投稿しよう!