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「……そうかな」
「え?」
まさか否定の言葉が入るとは思わなかった。
というか、聞いていたのか。
「関わってしまうこともあるし、そこで情がわくこともある」
淡々と言葉を落とす少女。そんな経験があるのか。
「たった十五日間。月が見えない日は会えないから実際もっと少ないこともある」
やけに落ち着いて、大人びているのは月の子としてどんな経験をしたからなのか。
「私も人間になりたかった。だから同じように過ごそうとしたけど、やっぱり出来なくて」
初めて月の子として姿を持った時の話だろう。
「辛かった」
感情なんて無いような無表情。
「記憶はないけど、普通になりたかったことと辛かったことはなんとなく分かるの」
中途半端に残ってしまったもの。いっそそれも消えていればもっと楽だっただろう。
「私は消えたいとは思わない」
怖くはないけれど、消えたいとは思わない。
一度、幸せを経験してしまったから。
月の子の彼女は普通の人間と感じ方が違う。
「それに、」
綺麗な横顔。浮世離れしたようなそんな感じ。儚い。
「こんなに苦しい気持ちを味わったのに、それが無かったことになるのはちょっと嫌じゃない?」
相変わらず無表情だったけれど、こちらを見る真っ黒な瞳が少し悲しげに揺れた気がした。
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