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◇◇◇
朝。私はドアの前で男性の訪れを待っていた。
私を迎えに来るのはどんな方? 心臓が高鳴る。素敵な人だといいな。でも、不安。来てしまったら、嫌な人でも断れない。それがルペルカリア祭の決まり。
コンコン
母さんが私の背を押す。恐る恐るドアの取手を持つ。でも開ける勇気が持てない。変な人だったら、怖い人だったらどうしよう。思わず目を瞑る。怖い。
「ユリア? 開けて?」
ドア1つ隔てた向こうから優しい声がする。昔聞いた声?
「ひょっとして、ルフス? 本当に?」
急いでドアを開けるとそこには大柄な男性が立っていた。随分久しぶりに見た家族以外の男の人の姿にビクッとする。でも、その顔にはどこか面影があった。
「本当にルフス? 本当に?」
「覚えていてくれたんだ、嬉しい」
恐る恐る伸ばされた手を恐る恐る取ってドアの外に出る。姿はすっかりかわって、とてもたくましくなっていた。子供のころと違った感情が沸いてくる。なんだかドキドキする。
今日1日ずっとルフスと一緒。嬉しい。でも今日が終わったらお別れしないといけない。そう思うと、会ったばかりなのに怖かった。
「ユリア。お願いがある。俺と結婚してくれないか」
「えっ」
「まだ会ったばかりだけど、離れるなんて耐えられない。ずっとユリアが好きだった。結婚してほしい」
「わ、私もルフスのことがずっと好きだった、嬉しい」
ルペルカリアの祭りで出会った男女は1日一緒にいて、夜があけた次の朝に別れる決まり。
結婚の挨拶は明日の朝。それまでは一緒にいましょう?
繋いだ手が温かい。
「ユリア。俺は今年ロムルスに選ばれたんだよ」
「え、凄い。じゃあ来年は私を皮鞭で打ってくれるかしら?」
「来年も選ばれたらね。それでね、これを君にあげる」
「なぁに?」
「ロムルスの祝福として司祭様に頂いた。チョコレートっていう薬なんだよ。帝国がはるか南の国で手に入れた貴重なものらしい」
「嬉しい。ありがとう、ルフス」
新しい恋人たちは手を取り合って祭りに浮かれる町に消えた。
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