act.121

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act.121

Past ー過去ー  私が「邪魔なんかじゃないでしょ。練習が必要じゃないですか?」と声をかけると。  怜央さんは、一瞬戸惑った表情を浮かべたものの、すぐに穏やかな顔つきになり、「そうだな」と返事をした。  これまで、“アマノジャク” ── これも最近私が覚えた日本の言葉だ……な行動ばかりしてきた彼からしてみれば、かなりの進歩ではないかと私は思った。  怜央さんが「3人で付き合う宣言」をしてからというもの、時折彼は、元から持っていた“素直さ”を徐々にではあるが、取り戻しつつあるように思える。  聡士さんが言っていたような“天真爛漫”さ ── これは以前から知っている言葉だ……からはまだまだ程遠いが………。  怜央さんがゆっくりとベッドまで近づいてくる間、私は聡士さんの顔をチラリと見下ろした。  聡士さんは、脱げかけのTシャツで顔を半分隠していたが、その瞳には少々緊張した色が浮かんでいた。  突然の展開に動揺しつつも、叫び出したくなるのをグッと我慢しているように見えた。  確かにここで聡士さんが怯むと、怜央さんは去っていってしまうだろう。  聡士さんには悪いが、私は聡士さんの動揺に気付かぬふりをした。  きっと本当に嫌なら、もうそう言っているはずだから。  おそらく彼の動揺は、単なる“恥ずかしさ”からくるものだと私は判断した。  彼は私が目を丸くするほど、本当にいろんなことを恥ずかしがる。  まぁそこが彼のチャームポイントでもある、と最近私はそう思い始めてきていた。  怜央さんがベッドサイドに立った時も、聡士さんは、濡れ始めていた自分の股間を立てた膝で隠した。  その動きをどう感じたのか、怜央さんは着ていた白い長袖のTシャツをバサリと脱ぐ。  暖炉の火に照らし出された彼の上半身は、私より細身ながらも聡士さんよりは筋肉が太く、両腕は特に逞しかった。  私もそうだが、はっきり言って料理人は肉体労働者だから、黙っていても筋力がついてくる。だから腕を支える胸筋も発達していて、均整の取れた美しい身体をしていた。  私が銭湯で研鑽を積んできた日本人の体データベースの中でも、怜央さんはバランスが取れた逞しい部類だと言えるだろう。これでは女性が放っておかないのも頷けると思った。  しかし怜央さんは、脱いだTシャツを腕の先に纏わせたまま、しばし考え込んでいた。 「 ── どうしました?」  不安になって私がそう聞くと、怜央さんは「いや……」と呟いて、私に視線を合わせた。 「なぁ、アル。俺、今日は見学してもいい?」 「え?」 「俺、男同士は初めてだし。よくわからねぇこともたくさんあるから」 「あ、ああ…………」 「俺、今日は見てたい」  怜央さんは最後に、強い意志の籠った瞳と声でそう私に伝えてきた。  私にとっては何だか肩透かしを食らったように感じたが、確かに初めてのことなのだからそういうものかもしれないと、私は「構いませんよ」と返事をした。 「聡士さんは? 構いませんか?」 「え…………」  聡士さんの反応は鈍かったが、それは恥ずかしさの裏返しだろう。 「 ── 別に………い、いいけど…………」  不機嫌そうに彼はそう返してきたが、それはテレ隠しであることは間違いなかった。  私は怜央さんに「見学するために、何ならそこのソファーをこちらに移動させてきますか?」と声をかけようとしたが、彼は見学する場所をもう既に決めたようだった。  彼は、「じゃ」と機嫌の良さそうな声でそう言うと、私と聡士さんの身体を少し右側に寄せて、自分は左側の空いたスペースにごろりと身体を横たえた。  ── えッ⁉︎ そ、そこ⁉︎  私も聡士さんも、同時に目を丸くした。  まるで聡士さんに添い寝をするような位置で、そこから見えるものといえばおそらく聡士さんの顔がほとんどじゃないか、というような位置だったからだ。 「れ、怜央さん。本当にそこで良いのですか?」  思わず私がそう聞くと、怜央さんはキョトンとした顔付きで私を見上げ、「うん」と頷いた。 「これ、邪魔だから取っちゃえよ」 「え?…………う、うん…………」  怜央さんは、聡士さんの首元でクシャクシャになっていたTシャツを引き抜いてしまう。 「じゃ、どうぞ」  怜央さんが目を輝かせながらそう言うのを聞きながら、私は「何だか妙なことになってきたな」と内心両肩を竦めた。  パリにいた時代に3P以上でのセックスも私は既に経験済みだったものの、こうして改めて第三者にじっくりと観察されながらセックスするのは初めてで、聡士さんじゃないけど、結構恥ずかしいものだなと私は感じた。  まぁでも、私がここで尻込みをしていては、物事が先に進まない。 「では、遠慮なく…………」  私は怜央さんと挨拶を交わして、聡士さんとのセックスに集中することにした。  先程の続きという感じで、私は聡士さんの胸元からお臍にかけて、チュッチュッと細かいキスを落としていった。  最初は右手の拳で口元を隠し、チラチラと怜央さんの様子を気にしていた聡士さんだったが、私が彼の性器を口に含むと、「あっ」と反射的に可愛い声を上げた。 「 ── は、恥ずかしい………‼︎」  ついに耐えられなくなったのか、顔を真っ赤にした彼は、両手で顔を覆ってしまった。  まぁ確かに、幼馴染に“感じている姿”を横からじっと見つめられているシチュエーションはかなり特殊なので、恥ずかしいとは思いますけどね………。  チラリと怜央さんを見ると、怜央さんは穏やかな表情のまましばらく聡士さんを見つめていたが、聡士さんが両手で顔を覆ったままでいるのが長くなると、不安そうな顔つきでなぜか私の方を見てきた。   ── いや………、これは“不安”じゃなくて、“不満”、か。 「安心してください。そのうち訳がわからなくなってきて、手のガードは外れますから」  私が怜央さんにそう囁くと、怜央さんは安心したようにまた「うん」と頷いて、元の姿勢に戻った。  ── 要するにこの人は、聡士さんが感じている顔を見たい、ということだな。  私はそう自分で納得して、愛撫を再開した。  そういうことであれば、感じ過ぎて我を忘れてトロトロになった聡士さんの顔を早く見せてあげようと思い、私は張り切った。  だって、私も同じ人を愛する者として、聡士さんの“トロ顔”は最高に可愛くて綺麗だと思っているし、それに集中してじっと眺めてみたい、という怜央さんの趣向もかなりの部分、理解できた。  少し性急に聡士さんのソコを口の中で扱くと、聡士さんは「ンッ、ンッ」と喘ぎ声を押し殺しながらも、ビクビクと腰を上下に揺らした。  両手のガードはまだそのままだったが、彼の身体の反応は正直で、手で覆えていない首や耳たぶが真っ赤に染まっている様も何とも言えず愛らしかった。  怜央さんは時折私の方に視線を移すと、「やっぱソコが一番感じるとこなの?」と小さな声で聞いてきた。  私は聡士さんのソコから顔を起こすと、私の唾液と彼の先走り液に濡れたソコを手で優しく扱きながら「感じやすいところではありますが、一番ではないですね」と答えた。怜央さんが、へぇーというような表情を浮かべる。 「一番は、こちらです」  私は自分の指を2本一緒に舐めると、聡士さんのアヌスを軽くマッサージした後に、指を挿し入れた。 「 ── あぅ!」  思わずといった具合に聡士さんがはっきりとした声を上げ、一瞬両手が緩む。 「ここを念入りに可愛がってあげると、どんどん花が開いてきますよ…………」  怜央さんが少し目を丸くして私を見た。 「アル。お前、その表現、まるで大昔のオッサンみたいだな」 「今は狙って言いました。好きですよ、大正ロマン。 ── さぁ、そう言っているうちに、ほら」 「ぁッ、ぁぁッ、あっ………!」  聡士さんがビクビクと腹筋を揺らし、堪らず両手で私の手首を掴んできた。 「 ── ホントだ」  怜央さんの表情が綻び、再び彼は聡士さんの顔を凝視し始めた。 「アァッ、そこ── ダメッだって…………」  一瞬聡士さんは苦悶の表情を浮かべて、私の手首を強く握った。  だって私が今愛撫している場所は、聡士さん一番の性感帯だからだ。 「そ、そこ、ホントにダメッ…………」  聡士さんはギュッと目を瞑って、焦り気味にそう言う。 「へぇ。聡士でも、そんなこと言うんだ」  怜央さんがそう呟く。  聡士さんは再び自分が今怜央さんから感じている顔をジッと見つめられていることを思い出し、「恥ずかしい!」と声を上げたが、私はと言うと、その後怜央さんが浮かべた表情に魅入ってしまった。  それはこれまで一度も見たことのない、とても柔らかで温かい無垢な少年のような微笑みだった。  さながらイヤらしさとは無縁の…………はっきりと言ってしまえば、この場には些かそぐわない表情。  ── うわ…………。この人、こんな顔することもあるんだ…………。  そこで私はハッとして、ようやく理解した。  この人は…………。この人の聡士さんに対する愛は、ティーンの頃で時を留めているんだということを。  ── ああ。彼は今まさにゆっくりと、その恋を育み始めたばかりなんだなぁ…………。  そんなピュアな“純愛”を目の前で見せつけられたようで、私の方がドキリとして顔が赤くなった。  まるで私も少年の頃に引き戻されたような錯覚を思えた。  しかし残念ながら、私の幼少期は恋についてのいい思い出がなく、少しほろ苦い感情も湧き出してしまった。  ── 私にだって、この恋が初めての本物の恋なんだ…………。  私はそう思い直した。  私には私の愛し方がある。  怜央さんにはできない愛し方があるはずだ…………。  私は指を引き抜くと、サイドボードからローションのボトルを取り出して、自分のモノと聡士さんのアヌスに塗り込んだ。  流石の怜央さんも私のサイズに驚いたのか、目を大きく見開いて、「アレ、お前、大丈夫なの?」と聡士さんに声をかけていた。 「 ── え?…………」  一番感じる場所に私からの執拗な愛撫を受け、もう既に朦朧としかけていたのか、聡士さんが譫言のような声で返事をする。 「アルのアレ、相当な大きさだけど。お前の中にちゃんと収まるの?」 「そ、そんな恥ずかしい質問なんかに答えられるか」  やや正気に戻ってしまった聡士さんは、そう答えながら右腕で口元をまた隠してしまう。  またも怜央さんが、“ふまん”と言うように私を見てきたので…………この子どもっぽい拗ね顔、なんだろう…………、「きちんと丁寧に解してあげれば、ちゃんと受け入れてくれますよ」と答えた。 「ここはもう充分柔らかいので、大丈夫です」 「そうなんだ………。アル、早く挿れてみて」 「何だよ、お前! いちいち恥ずかし過ぎる………!」  ついに聡士さんが大きな声を上げて腕を振り回したが、怜央さんはものともせず、聡士さんの腕を押さえて「早く見たい」と続けた。  私は何となく二人のやりとりを見ながら、目を点にする。  ── さっき私は純愛がどうこうって考えたけど…………。単に怜央さんって、こういう趣味があるのかな? ええとなんて言ったっけ…………。視姦趣味? 「アル」  またも怜央さんが私を見て『ふまん』と唇を突き出したので、「わかりました」と返事をした。  とはいえ。  急に挿れるのは聡士さんに負担がかかるので、私はいつものように焦ることなくじっくりと聡士さんの中に挿入っていった。 「 ── うっ、アッ、ぁあッ…………!」  私がグイッと身体を奥に進める度に、聡士さんは顎を上げて甘い声を出した。  両手首を怜央さんに抑えられていたので、もう顔も隠せずにいた。 「ァアッ、ハズカシッ………!」  そう悲鳴を上げつつも、挿入前にギリギリまで感じさせられていた彼は、ペニスからビュッビュッと飛沫を上げた。 「 ── わ。すげぇ…………」  これには怜央さんもびっくりしたのか、そう呟く。 「触ってもねぇのに………。そんなことってあるのか」 「可愛いでしょ? もっと出ますよ。 ── ほら」  私が軽く上向きに突き上げると、更にビュッと飛沫が噴き出た。 「アッ…………ウウッ‼︎」  後から絶頂の波が襲ってきたのか、聡士さんはそのまま息を詰めてビクビクビクッと全身を震わせた。  いつもの彼のイキ方だ。 「激し………。こんなイキ方するんだ、聡士」 「ええ。声は出さないですけど、とっても気持ちよさそうにイッてくれるので、こちらも嬉しくなるんですよ」 「ああ、なるほど。わかる気がする…………」  気づけば、聡士さんは怜央さんの手をギュッと握っていた。 「ァア…………あ…………ハァ…………」  次第に弛緩していく聡士さんの表情を見つめ、怜央さんが空いた方の手で聡士さんの頬を撫でると、薄らと目を開けた聡士さんがぼうっとした表情で怜央さんを見た。  彼の艶やかさが開くのは、ここからだ。  私は再び、腰の動きを再開する。  彼の良いところを強く擦るように腰を動かすと、聡士さんの口から艶っぽい声がどんどん溢れ出てきた。 「ぁんっ、ァアッ、アッ!」  怜央さんの手にギュッとしがみついて、声を上げる。 「 ── 聡士、かわいー…………」  怜央さんが呟いた。 「こんな声出すんだ」 「ね、とっても可愛いでしょ?」  額から汗を滴り落としながら私がそう聞くと、怜央さんはコクリと頷いた。 「あなたも可愛がってあげてください」  私は怜央さんの空いている方の手を取ると、聡士さんのペニスを握らせた。 「扱いてあげてください。あくまで、優しく。ね」  怜央さんはただ黙って、私が言ったようにそっと手を動かした。 「 ── アァッ、アァッ! そんな、ムリッ、ムリッ! 怜央ッ! ル、ルカァッ、ダメッ! またイクッ………、あァアああ!」  またも聡士さんは、激しく全身を震わせながら、絶頂を迎えたのだった。   Present ー現在ー  アルフォンスが風呂場から髪の毛を拭きながら戻ってくると、怜央はソファーに座ってぼんやりと暖炉の火を眺めていた。  聡士は、怜央に観られながらのセックスで感覚が昂り過ぎたのか、3回目の絶頂を迎えたところで「眠い」と呟いて、寝落ちしてしまった。 「コーヒーでも淹れましょうか?」  アルフォンスがソファーに近づきながらそう尋ねると、怜央さんは「ん? ああ………」と顔を起こし、「俺が淹れてくる」と呟いて、一旦隣のキッチンに姿を消した。  怜央は直にアルフォンスのところまで戻ってくる。 「インスタントだけど」 「充分です」  二人並んでソファーに腰掛け、ゆっくりとコーヒーを啜る。 「それで? どうでした?」 「ん?」 「セックスするのを見てみて。何か得るものはありましたか?」  アルフォンスがそう聞くと、怜央は長い睫毛を瞬かせながら、こう答えた── 。
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