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雨が降り始めた。
傘をさし歩き出すと、ゆるい坂道を下って来た自転車とすれ違いざまにパサッと音がした。音がした方を見ると、黒糖ロールが5つくらい入ったパンの袋が落ちている。
自転車のカゴから落ちたのかな。2歩ほど戻って手を伸ばせば拾ってあげられる。
自転車から降りて拾うのも面倒だろう、と、パンに近付くと、私の行動は見えているだろうにその人は自転車を降りた。
あ、子供が触ることを心配してるのかもしれない。
一瞬、ためらった。でも私はもうパンに向かっていたから、ここでまた引き返すのもおかしい。さっきお店を出る前に手指の消毒をしたところだから、もしも私が無症状の感染者でも今の私の手は安全なはずだし。
パンを拾い、
「どうぞ」
と差し出すと、女の人が自転車のハンドルを片手で持ったまま、
「ありがとう」
と笑顔で受け取ってくれた。
良かった、私を警戒して自転車を降りた訳ではなさそう。
もしも私が触ることで不安にさせてしまうなら、私のしたことはただの大きなお世話になってしまう。
あ、雨が降りそうだから、急いで買い物に行ったのかな。女の人は傘をさしていなくて、前のカゴも後ろのカゴも満杯だ。
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