チョコレート売り場の三人の男

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 一方で、星合が『マリアージュ』という言葉の響きにときめきを覚えたのも又事実だった。 フランス語で『結婚』や『婚姻』を意味した。 「結婚だなんて、そんな性急過ぎる・・・・・・」 星合は独り勝手に心の中でうろたえた。  柳とは一緒に暮らし始めてやっと半月、二週間目を迎えたに過ぎない。 現行の日本国憲法では同性間の婚姻関係は認められていないので、そもそも結婚は有り得ない。 しかし、何と甘やかで魅惑的な言葉だろうかと星合は思う。  認められてもいない法律的のこと以前に実質的なのこと、――つまりは恋人関係か否かも微妙なところだった。  そう、星合は未だに柳との決定的な肉体関係がない。 手に触れ合う→つなぐ→抱き合う(ハグ)までは至ったのだが、その先の口付け(キス)にまでは進んでいない。  いつ、進むのだろうか? それは今度の日曜日、二月十四日のバレンタインデーを足がかり(きっかけ)にする他にはない!と、星合は思い至った。  思い詰めていた。とまで言い切ってもいいだろう。 会社帰りに滅多に寄らない、否、寄った試しがないデパ地下にまで足を踏み入れてみたりもした。
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