チョコレート売り場の三人の男

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 男はガラスの冷蔵ケースの前に立ったままで、微動だにしない。 無事に注文をし終えたというのに、視線は未だにチョコレートを捕らえて(ロックし)離そうとはしなかった。  ――まるで獲物を狙っている野生動物そのままだった。  名前までは思い出せなかったが、ほとんど動かないで魚を獲る大型の鳥を星合に思い起こさせた。  「ケースの上から失礼します」という言葉と共に店員から手渡された紙袋を、星合は慎重に受け取る。 ほとんどコワレモノの扱いだった。  チョコレートショップを後にする際に『銘酒セレクション五種類』の男とは別の、もう一人の男をチラっと見た。  スマートフォンを左手にして一心不乱に送り状を書いている。 星合の目にもハッキリと内容が見て取れるほどにクッキリとした、筆圧の強さだった。 「え・・・・・・?」  『お届け先』と『ご依頼主』との欄にそれぞれ記された『おなまえ』は、どちらも男のものだった。 今、送り状が破けんばかりにボールペンを走らせているのが、『ご依頼主』である『成田雅彦』だろう。 『お届け先』に記されているのは『西尾篤史』となっている。
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