93人が本棚に入れています
本棚に追加
男はガラスの冷蔵ケースの前に立ったままで、微動だにしない。
無事に注文をし終えたというのに、視線は未だにチョコレートを捕らえて離そうとはしなかった。
――まるで獲物を狙っている野生動物そのままだった。
名前までは思い出せなかったが、ほとんど動かないで魚を獲る大型の鳥を星合に思い起こさせた。
「ケースの上から失礼します」という言葉と共に店員から手渡された紙袋を、星合は慎重に受け取る。
ほとんどコワレモノの扱いだった。
チョコレートショップを後にする際に『銘酒セレクション五種類』の男とは別の、もう一人の男をチラっと見た。
スマートフォンを左手にして一心不乱に送り状を書いている。
星合の目にもハッキリと内容が見て取れるほどにクッキリとした、筆圧の強さだった。
「え・・・・・・?」
『お届け先』と『ご依頼主』との欄にそれぞれ記された『おなまえ』は、どちらも男のものだった。
今、送り状が破けんばかりにボールペンを走らせているのが、『ご依頼主』である『成田雅彦』だろう。
『お届け先』に記されているのは『西尾篤史』となっている。
最初のコメントを投稿しよう!