チョコレート売り場の三人の男

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チョコレート売り場の三人の男

 そのチョコレートショップはデパートのB1(地下一階)の食料品売り場、いわゆるデパ地下の隅っこにひっそりと配置されていた。 又、主力(メイン)商品が生チョコレートという、味でも見た目でも基本に忠実(シンプル)極まりない点も幸いした。 ――つまりは地味で人目に付きにくく、それ故に人を寄せ付けなかった。  同じフロアーに在る他の製菓店はもれなく、女性客たちでごった返している。 二月十四日を明後日に控えた金曜日の夕方では、それが普通(デフォルト)だった。  ともあれこの店でやっと、星合(ほしあい)(うみ)は心置きなくチョコレートを選ぶことが出来た。 もしかすると、星合と同じように思っているのだろうか? 他にも二人の男がやはり冷蔵ケースの中のチョコレートをガン見、もとい吟味している。  星合が悩んでいるのは有機栽培の紅茶を練り込んだ二種類の生チョコレートの内、どちらにするかだった。  一つはアールグレイ。 『アール』とは英語で伯爵の意で、イギリスのグレイ伯爵にちなんだフレーバード(着香)だった。 ベルガモットという柑橘類の一種の清すがしい香りが紅茶の(かんば)しさととてもよく合う。
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