とある吸血鬼の悩み

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とある吸血鬼の悩み

 血浦暁は、一見どこにでもいる会社員である。彼は、昨今の混乱の中で、普通とは少し違う悩みを抱えていた。  オンライン会議と相性が悪い。  テレワークが増えるのは仕方がないと、わかってはいた。血浦自身に感染症の恐れはほぼないが、うつしてしまう可能性がないわけじゃない。うつすリスクを背負ってまで出勤したくはないというのが血浦の考えである。  しかし、オンライン会議だけは毎回苦痛だ。それも、回を重ねるごとに苦しみが大きくなる。  血浦はカメラに映らない。何十人もの色の中に、一か所、無機質な壁が映し出される。意味がないから、血浦だけはいつもカメラがオフになっている。  不幸中の幸いと言うべきか、音声はまだらに通るようで、一応の意思疎通はできた。  それでもみんなと同じように参加することができない。血浦ははっきりと、見えない境界線を感じていた。  彼は吸血鬼なのである。
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