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とある吸血鬼の末路
「出るなよ」
家川が厳しく、冷静に指示する。
「カメラに盗聴器が入っているのかもしれねぇ。映像はリアルタイムで送ってるか、あるいは――」
家川は難しい顔をして黙りこくった。頭を掻いて深くため息をつく。
「俺もそっちに向かう。5分もあれば着くと思う。絶対に扉は開けるな」
ちょっと待て。血浦が引き留める前に、家川との通信が切れた。
血浦は一人残された部屋で目を覆った。一人になると、今日一日の出来事が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
しかし物思いにふける余裕はない。突如、窓に取り付けた防犯ブザーがけたたましく鳴り響く。次の瞬間には、窓ガラスが割られて2人の見知らぬ人が侵入してきた。
「――は!?」
馬鹿な。血浦の部屋は高層マンションの5階にある。窓から入るとは。たまらず叫び声をあげた血浦に、2人の侵入者が襲い掛かった。
しかし、血浦は曲がりなりにも吸血鬼。2人の人間から逃げるくらいは造作ない。本来であれば。
血浦の二の腕に、火傷のような痛みが走る。
――十字架か
この状況ではいつまで逃げ切れるかわからない。やむを得ず、血浦はドアから部屋の外に出た。
「血浦!? 外に出るなっつたろうが!」
家川の声だ。ちょうど到着したらしい。
「窓から入ってきた!」
「はぁ!?」
2人の侵入者はなおも血浦を狙い続ける。家川が後ろを振り返ると、5人ほどの人間が彼を追いかけている。
退路を断たれた。そう判断すると同時に、家川は、血浦の袖を無理やり掴んで床のない所へ投げ出した。次いで自身も身を投げる。
「やばいって! 羽とか出ねぇの!?」
理不尽に叫ぶ家川の横で、血浦は無謀と思いながらひたすらに念じた。
(羽、出ろ! 羽出ろ!)
血浦は願い続けた。グワンと体が天に引っ張られる。いや、落下の速度が落ちた。黒い羽根が天を舞う。
血浦の背に、羽が生えた。
血浦は騒ぐ家川をなんとか引き上げ、ゆっくりと着地する。
「うおぉー! お前すごいな! 生きてる! よし、この調子で――」
一人盛り上がる家川に対して、血浦は着地するなりしゃがみ込んだ。
「――血浦?」
血浦は苦しそうにあえぎ、ついには倒れた。自我をほとんど失った血浦は、これまでに感じたことのない空腹を感じていた。
「彼らを捕らえてください」
聞き覚えのある声がする。声のする方には、雪丑が立っていた。
血浦と家川はなすすべなく彼らに捕らえられた。
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