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吸血鬼は少数ながら実在する。それも、現代の人間社会の中に存在している。
彼らは十分な鉄分さえあれば人間を襲うことはない。
サプリメントを毎日欠かさず摂取し、歯の裏に鉄製の金具を装着して絶えず鉄分を補給する。昼間に外へ出るときは日焼け止めを塗り、日傘と帽子を必ず身につける。十字架やニンニクにはなるべく近づかない。
それさえ守れば、人間とほぼ同様の生活を送ることができる。鏡やレンズに映らないので困りごとが全くないわけではないが、血浦含め、彼らは人間たちが思っているよりも「普通に」生活している。
だがそれは通常時の話だ。今は状況が特異すぎる。
さて、吸血鬼が人間に害をなさないからと言って、吸血鬼が忌み嫌われないわけではない。
血浦の同僚のうち何人かは、血浦の正体を知っている。皆いい人で、血浦のことを同志として受け入れてくれた。それでも、次に正体を知った人がどんな反応をするかわからない。だから吸血鬼は正体を隠して生活する。
吸血鬼が正体を隠す理由はそれだけではない。吸血鬼を、その希少性のために狙う者がいるのだ。
彼らは、吸血鬼をさらっては研究に利用するのだという噂である。「吸」血鬼を「研」究する者という意味で、研”吸”者などと呼ばれている。
現代における吸血鬼は人間の脅威となる化物どころか、人間をある意味で恐れ、細々と隠れながら生活する弱い存在だ。
弱い存在だから、吸血鬼を守る組織が存在する。当然血浦も保護されている。
奇妙であるが、その組織は洒落を込めて「教会」と名乗っている。十字架のない教会である。研吸者から吸血鬼を守る他、サプリメントや鉄の配布等を行って人間社会での生活を支援する。
しかし教会は現在、一切の活動をできていない。
というのも、吸血鬼が一般にITに弱いこともあって、教会自体も昨今のオンライン化についていけていないのだ。
以前は吸血鬼たちが各々人ごみに紛れて教会の拠点へ行き、サプリメント等の支援を受けていた。
今は出歩く人が少なくなっており、いちいち拠点へ赴いていては目立ってしまう。目立ってしまっては、研吸者に見つかる危険性が高まる。
暗くなってから動こうにも、今は夜出歩くとひんしゅくを買うし、かえって注目を浴びてしまう。
サプリメントなどは家に届けられたらいいのだが、情報漏洩に注意しないと家の場所がわかってしまうので、最終手段とされていた。
仕方のない状況ではあるが、吸血鬼からしてみればかなり難しい状況である。
残りのサプリメント数を数え、必要最低限の粒を喉の奥に流しこむ。フライパンでも釘でも、鉄製の物なら何でも口に含む。オンライン会議では自分だけが画面に映らない。
そんな生活が続き、さすがに血浦にもストレスも溜まっていた。
だから、教会名義のメールが携帯に届いたときは、心の底から喜んだのである。
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