特殊なカメラ

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特殊なカメラ

 ある日、血浦にメールが届いた。釘の頭をくわえながら、会議資料のアウトラインを考えていたところだった。  差出人は、「保護団体『教会』」とある。件名は「ご連絡が遅くなり申し訳ございません」。血浦は、心臓が動きを止めるのを感じた。  メールの内容は以下の通りである。 ―――  対象者各位  いかがお過ごしでしょうか。保護団体、「教会」です。  諸事情によりランダムなメールアドレスを作成・使用しております。ご理解ください。  本日は、特殊なカメラのご案内のためご連絡を差し上げます。  昨今、対象者様方からレンズに映らないことに関するご相談が増加いたしました。  そこで、特殊なウェブカメラを開発いたしました。対象者様方をカメラに映すことが可能です。  希望者に無料で配布いたします。配布を希望される方は、以下のURLから、必要事項をご記入ください。 (URL)  以上、よろしくお願いいたします。  なお、ご返信は不要です。 ―――  思わず血浦の頬が緩む。どんなに意識しても、緩みを止めることができなかった。  教会からようやく手を差し伸べられたと思ったら、今の自分の最大の悩みをも解決してくれるという。こんなに素晴らしいことがあるものか。  こんなに素晴らしいことが、あるものだろうか?  血浦はURLを選択しかけ、一瞬ためらう。 (さすがに怪しくないか?)  教会から血浦にメールが届くのはこれが初めてだ。ランダムなメールアドレスを使うことについて、理解はできる。足がついてはいけないから。理解はできるが、それは教会以外の者も簡単に教会を名乗ることができるということだ。  そう、例えば、研吸者とか――。 (いや、それはないか)  血浦はフルフルと首を振る。研吸者が自分のアドレスを知るわけがない。  メールは、血浦の教会用アドレスに届いていた。これは連絡用として教会に登録した以外、他で用いたことも、誰かに存在を話したこともない。  だから、このメールは教会からのもの以外にあり得ないのだ。  血浦はURL先へ飛んだ。なるほど、このウェブカメラ本体や配布に関する詳細な情報が、シンプルに整然と説明されている。  次のオンライン会議は明後日である。血浦は必要事項を記入し、2日で受け取れるものだろうかと、それだけを心配した。
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