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オンライン会議にて
さて、血浦が頼んだカメラは、オンライン会議の1時間前に無事届いた。覚束ない手際で急いでカメラの設置を済ませ、会議の開始前ギリギリに参加する。
(どうか映りますように)
そんな血浦の不安は杞憂に終わり、血浦のどこか緊張した面持ちが鮮明に画面に映し出される。
血浦が興奮するのはもちろんだが、同僚たちも平静ではいなかった。特に血浦の正体を知る者は驚きを隠しきれず、喜ぶより前に、前情報との矛盾に怪訝そうな顔をした。
「あれ? 今日は血浦先輩、カメラオンなんですね!」
初めに血浦に声をかけたのは、雪丑賢也という後輩である。純粋でかわいい後輩だが、血浦は正体を明かすのはまだためらっている。
雪丑の明るい声で、他の同僚もようやく心からの笑顔を見せた。
「あぁ、……でカメ、……さっき来て」
マイクは替えていないので音質は変わっていない。血浦の声はうまく届かない。
しかし何十もの人の中に自分が普通に並んでいることがうれしくて、構わず話に花を咲かせる。雪丑を始めとして皆いつも以上の笑顔で語り合い、会議の開始は結局10分ほど延びた。
「はい、さて! そろそろ会議を始めましょうか」
司会担当が画面の向こうで手を叩いた。えーっと、と参加者を確認して言葉を続ける。
「皆参加してるかな。家川くんからは遅刻すると連絡を受けています」
こうして予定よりも遅く始まった会議は、予定よりも早く進んだ。
しかし順調には終わらなかった。
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