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ほんの数分待って、テレビ通話が始まった。
家川はカメラを付け替えて、無事人間の姿で画面に映る。血浦は一瞬悩んだが、結局カメラはオフにした。
先に口を開いたのは家川だった。
「カメラ、さ、どうしたの」
歯切れの悪い質問だ。
「映ってたじゃん。今日。ずっとカメラオフだったのにさ」
何に気を使っているのか、言葉を選びながらぽつぽつと文を羅列する。深刻そうな表情に、黒い画面の中で血浦の表情も思わず硬くなる。
「……そっちこそ、今日どうしたんだ」
血浦は質問に質問を返す。ひとつ大きく深呼吸をして、言葉を続ける。
「メールが届いたのか」
自分の声は、はっきりとは相手に届かない。なるべく大きな声で、震える声を抑えながら本題を切り出した。
気まずい沈黙が続く。家川はしばらくフリーズして、通信環境が悪いのかと血浦が心配したころ、あぁあと天を仰いだ。
「やっぱそーいう感じ?」
絶望交じりのその声に、血浦は目の前が暗くなる思いがした。家川はなるべく暗くなり過ぎないようにと、言葉を続ける。
「いやぁ、俺もさ、アホなりに考えてみたのよ。映らないものが映るカメラを使ったら俺は映らなくてさ、代わりに映らないはずのお前が映っててさ」
いや、俺マジでバカだわ。対象者ってそういうね。あぁ、なんで気づかないかなぁ俺。
次々と並べられる言葉は、特に血浦に向けてのものではないのだろう。天井を睨みながら発せられる独り言を、血浦はしばらく黙って聞いていた。
「本当にその、教会っていうの? が、助けてくれたんならいいけど。いいニュース――って感じじゃあ、ないよな」
俺にもメール届いてるしなぁ。本当に保護団体なら部外者に情報送らないよなぁと、家川の嘆きは止まらない。
「どうしたらいいと思う」
頃合いを見て、血浦はようやく口を開いた。家川は窮地に陥ったときに血浦では思いつかないことをやってのける。いざと言うときには頼りになるのだ。
うん、そうだな、ちゃんとしなきゃな。
そう言ってようやくカメラに顔を向けた家川は、頼りになるときの顔をしていた。
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