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「メールの送り主はわかってるん?」
家川は頭を掻きながら尋ねた。頭を掻くのは、彼が思考を巡らせるときの癖である。
血浦はわずかに身を乗り出した。そんな様子も、画面に映ってはいないのだが。
「心当たりがあるとすれば、研吸者と呼ばれる人たちだ。吸血鬼を研究するという噂は聞いたことがある」
「おっかねぇなぁ」
血浦の返答に家川は一層強く頭を掻いた。血浦は次の言葉を待つ。
家川は数秒ほどでぴたりと動きを止める。
「その人らは、カメラを送りつけてなんかいいことあるの?」
血浦はハッと息をのんだ。
そんなの、特にメリットなど、あるはずがない。
だがほのかな希望は、家川の待て待てという声にかき消される。
「本当に教会とやらなら、俺にメールは届いてないだろ。俺が言いたいのは、研吸者ってやつらはカメラで何をしたいのかなってこと」
そうか、そういうことか。血浦は落胆したが、同時にはてと首を傾げた。
吸血鬼が映るカメラを作成して、それを配布して、研吸者は何がしたいのだろうか。いや、そもそも。
「研吸者だって、広く知られちゃ困るはずだ」
吸血鬼に正体が悟られれば逃げられてしまうし、非人道的なこともしているのだろうから世間一般にも知られたくないはずだ。そもそも吸血鬼なんて世間から見たらおとぎ話のような存在を研究する機関など、どんな目で見られるかわからない。
不特定多数にメールなど送るだろうか。
「メールの送り先は、厳選されてたのかもな」
「つまり?」
血浦に聞き返されて、家川はまたポリポリと頭を掻く。
「吸血鬼かもなぁってやつに、メールを送るんだよ。俺もお前も、目をつけられてたのかもしれねぇ。メアドがどこで漏れたのかはわかんないけどさ」
「とすると、何のためにカメラを?」
血浦自身も頭を働かせようとはするが、こういうときの家川には及ばない。
「誰が本当の吸血鬼か、確かめるため?」
家川は自身の言葉に、「そっかそういうことか!」と大きく手を打った。血浦は何が何だか理解できていない。
「カメラ自体には何も意味はないんだ! 単なる手段なんだよ」
「手段?」
「そ。カメラに映ったら吸血鬼、映らなかったら人間ってこと」
やっと理解できた血浦の背筋が凍る。恐ろしい話だが、ありえなくはない。喉に何か詰まって言葉が出ない。
「待てよ」
家川の一人語りは続く。
「どうやって俺たちの画面を確認するんだ?」
家川の言葉と同時に、血浦の部屋にインターホンが鳴り響いた。
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