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魔法少女と大人未満な私
「ぎょぇぇぇーーー」
・・・またあの夢。
気持ち悪いゾンビの集団攻撃にあい、魔法の杖で必死に戦うけど何の呪文も効かない。もう駄目だーーー!ってところで目が覚める。
この悪夢を見るのは何回目だろう。大きなため息と共にカーテンを勢い良く開けた。
「いい加減、大人になれよ。」
棚の上に整然と並んだ魔法少女のフィギュアに、冷ややかな視線を送りながら彼は去っていった。
わたしの趣味に最初から塩対応だったけど、彼女は大好きなアニメの主人公なの。憧れだったんだよ、あなたに会う前からずっとね・・・
ゆっくりベットから起き上がり、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを乾いた体に流し込む。
そして空になったペットボトルを潰した。
「クシャ」
あ・・・これって彼の言葉を思い出すたび胸のあたりからする音。この潰れたペットボトルが今のわたし。
あの夢からも彼の言葉からも解放されて自由になりたい。静かに目を閉じてみた。
・・・大人・・・大人・・・いったいどうすれば・・・目を開け唇をキュッと結んだ。
握りしめていたペットボトルをゴミ袋に放り込む。そして振り返り棚の上の彼女を見つめた。
ごめん自分勝手でホントごめん、あなたが悪いわけじゃない。でも、あなたの姿を見ると思い出してつらいの。今のわたしにはこれしか思い浮かばないんだ、バカでごめん。
何度も何度も謝りながら彼女を手に取り袋の中に入れた。胸が苦しくて何かがこぼれそうだけど袋に詰め込んでいく・・・どんどん、どんどん・・・
悪夢も
彼の言葉も
彼との思い出も
昨日までの幼いわたしも
・・・どんどん、どんどん、どんどん・・・
「6時55分!6時55分!」
無心で作業してた耳に飛び込んできたテレビの音。
うわっ!出かける準備しないと!慌てて洗面所に駆け込みバシャバシャと顔を洗う。
「最も良い運勢は○○座です。」
つけっぱなしのテレビから聞こえてくる。やった!1位だ!ほんのちょっと元気が出た。
鏡を見つめアナウンサーの真似をして笑ってみる。うんうん!なかなかいいじゃん!カラ元気でもいいじゃん!
パンパンと軽くほっぺをたたき、気合を入れる。そして身支度を整え、温めたミルクを飲んだら出発だ。
え・・・ちょ!重っ!
ギュウギュウに詰め込んだゴミ袋を改めて見つめた。これゴミ捨て場まで持っていけるかな。
しかたなくズルズルと引きずって玄関の外に出す。
その時、隣のドアからも人の気配がした。お隣さんも出発らしい。
ほとんど会ったことないけど、後ろ向きでこちらには気づいていない。しかもドアのカギに苦戦中?
ん?・・・あれって・・・
襟の後ろにクリーニングのタグがついてる。知らないふりで通り過ぎるもの罪悪感あるし・・・
どうしよう思い切って声をかけてみようか・・・
「おはようございますっ!」
気づいたら思いのほか大きな声が出ていて自分でも少し驚いた。
ゆっくりと振り向く彼。
「お、おはようございます・・・」
戸惑った顔で静かに挨拶を返してくれた。そうだよね、ほとんど交流がない隣人に元気に挨拶されてさ。
なんだかちょっと笑えてきた。あ、そうそう、タグのこと教えてあげないとだよ。
「あの・・・」
「あの・・・」
ふいに声がシンクロした。
彼が少しだけ驚き、頭を掻きながら、優しい笑顔になった。
そして春一番が二人の間を楽し気に吹き抜けていく。
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