突然の告白

1/11

104人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ

突然の告白

綾城千秋(あやしろちあき)、二十八歳。短大を卒業して平凡なOL生活をしている。ルーティンワークに不平はなく、地味にお茶汲みや掃除、事務の仕事をしている。 「それで、逢坂は今日参加できるの?」 「え~、金曜に定時で帰れるんだったら、もっと別の遊びしたいですよ~」 「そうわがまま言わない! 半年に一度の部内の懇親会を馬鹿にしたら駄目だぞー?」 あと三十分で今週の仕事は終わり。みんなが帰った後にそれぞれのカップを洗って、各所にあるごみを纏めて、ごみの集積所に持って行けば、千秋も週末だ。 「綾城さんは? 綾城さんも行けるよね?」 懇親会の音頭を取っているのは砂本さん。面倒見が良くて、仕事も早い。すらっと高い身長とやさし気なまなざしの持ち主で、笑顔が素敵だから、女子社員からは微笑みの貴公子、なんて呼ばれている人だ。そんな砂本さんに言われると、皆参加しないなんて言えなかった。先に誘われていた逢坂(おおさか)さんもそうだったし、千秋もそうだった。 「一次会までなら参加できます」 「綾城さん、何時も一次会で居なくなるもんなあ。おうちが厳しいの?」 そういう訳ではないけれど、地味な千秋は何処に居ても埋もれるから、華やかな金魚たちが泳ぎ回る水槽の下に溜まった砂に隠れる魚のように藻掻いている時間が短い方が良いと思うだけだ。 「そんなところです」 本当のことを言わなくても、早く帰ることが出来るなら、それでよかった。仕方ないなあ、と言いながら、砂本さんがスマホに何かを記録している。きっと二次会の参加人数を把握したいんだろう。何処の飲み会でも幹事は大変だ。千秋が気持ちを切り替えて一週間の仕事の締めに入ろうとしたら、砂本さんがこんなことを言った。 「こら、男性陣。綾城さんにばかり雑用を押し付けない。自分のマグカップは自分で洗う。ごみも指定場所に」 こんな、事務の仕事に助け船なんて必要ないのに、今は男女平等の世の中だからと、砂本さんは男性陣に千秋の仕事をさせるのも厭わない。 「す、砂本さん、あの、私、皆さんの分、出来ますから……」 「そう言っておいて、皆の分をやっていたからと言って飲み会に遅れるのはなしだよ」 まるで逃がさない、と言われているようで、居心地が悪かった。早く飲み会が終わって解放されたかった。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加