突然の告白

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手が、震える。ぎゅっとカウンターの上で握った手に、砂本がやさしく触れてくれた。 「焦らないで」 穏やかなひと言だった。砂本さんの手はそのひと言の際に千秋の手にそっと触れて、そして離れていった。 「返事を急かしたいわけじゃないんだ。ただ、僕が君を好きになるのに時間が掛かったように、君にも僕のことを分かってもらうのに時間が掛かると思うんだ。だから、僕のことを分かった、と思った時に返事をくれれば良いよ」 店内の談笑に紛れてしまわない程度の小さな声で、砂本さんは言った。水槽の底で砂利の中に紛れて潜んでいた魚に、その振動で伝えてくるような、低音のささやき。 「聞きたいことがあれば、質問は受け付けるよ。これ、ID」 そう言って砂本さんは、名刺の裏側に自分のラインのIDを書いて寄越した。この場で連絡先を交換しようと言い出さない所が、千秋に権利を委ねている。つまり、登録しても、登録しないでも良いということだ。 「あの……」 どうしよう。IDを受け取って、登録しなかったら失礼に当たらないだろうか。おろおろと名刺と砂本さんの顔を見比べると、砂本さんがぷぷっと吹き出した。 「そんな、登録しなかったからって言って、職場でいじめたりしないよ」 気軽に考えて。同僚と交換するみたいにさ。 そう言って砂本さんは残りのコーヒーを飲んでしまうと、二次会に行くからと席を立った。千秋のことを好きだと言ってくれた人の背中を、また見送ってしまった。
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