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子供が遠方の大学へ通うこととなり、この春から、夫婦二人で暮らしている。
妻は専業主婦だ。ただでさえ暇な身分な上に、さらに一人へった。
時間を持て余したのだろう。
ある時、俺は妻の変化に気づいた。ほとんど興味を示さなかったパソコンに、よく向きあっているのだ。
妻は女の典型で、機械にはめっぽう弱い。いまだにケータイは二つに折れるタイプだ。ケータイの他に妻がかろうじて扱えるIT機器は、家族共用のノートパソコンだけだ。
俺は手持ちのスマホでことが足りるため、家のパソコンをいじることはまずない。
そのため、パソコンは常に閉じられ、サイドボードのはしで眠るばかりだった。ところが、最近ではリビングの机でしっかりと背を立てていることが増えた。
妻が目にしているのは、いつも大手検索サイトのトップページだ。
これがどうにも白々しい。
ニュースだとか、関心のあるブログだとか、なにか調べているものが映っていてもよさそうなのに、いつも検索サイトのトップページなのだ。
それまで見ていたページを隠していることは、明らかだった。
妻が買い物に出かけた隙に、俺はパソコンの電源を入れた。世間知らずの妻が余計なことをしていないか、チェックするのも夫の役目だ。
出会い系や不倫の疑いはまったく持っていない。
男が外で稼ぎ、女は家庭を守る。この美しい伝統を順守する妻は、買い物と図書館に行く以外はめったに外出しない堅実な女だ。
これだけはしてくれるな、というものが一つあった。
十五年ほど前に俺はマンションを買った。一国一城の主となったのだ。
しかし、そのせいで蓄えはわずかなものだ。金の管理は妻にさせているからわからないが、ローンは定年まであるはずだ。そんな家計の状態で、老後の資金にと称して、株などに投資していたら……。
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