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夢想
「新型コロナ関連の倒産が1000社を超えました」
YouTubeで経済ニュースをチェックしながら再び会社へと向かう。アナウンサーが悲痛な面持ちで伝えるニュースにはもう慣れてしまった。家のベッドでぐっすり寝たのはいつだろうか。もう何日も会社に寝泊まりしている。今日はシャワーを浴びるため、いったん家に帰ってきたのだった。
私の会社の業績も芳しくない。前年に比べて、売上が3分の1まで落ち込んだのだ。誰もいないオフィスで頭を抱える。
社員の安全を第一に考え、感染拡大防止対策としてリモートワークを導入したが、オフィス賃料は以前と変わらず発生し続けている。当然と言えば当然だが、支払日は待ってはくれない。
「社長、このままではあと半年で資金が底をつきます」
オンライン会議に経営陣が集結したが、この危機を突破する糸口さえ見出せぬまま解散となった。全員、目を充血させながら必死になって融資を取り付けてくれたおかげで、なんとか耐えている。社員とその家族の生活を守りたい。だが、万策尽きてしまった。これ以上、何ができるというのか。もう限界だ。
「……してはいけない」
はっと振り返る。だが、もちろん誰もいない。空耳か。
気のせいだと思っていた。あの時、あの瞬間までは−−。
◇
ここはどこだろう?
身に覚えのない場所。あたりには誰もいない。しんと静まり返っている。
大きな石鳥居がそびえ立っている。向こうには太鼓橋が見える。住吉大社か? 住吉大社なら大阪に住んでいた子供の頃によく通ったものだ。懐かしいな。
太鼓橋の先にはもう2つの橋が架かっていた。3つとも橋を渡り終わると、右手には笑うように梅が咲き誇っている。
そうか、もう梅の季節か。自然の移り変わりなんて、ここ一年気にかける余裕はなかった。再び鳥居が視界に入る。
「太宰府……天満宮?」
ということは福岡か。九州なんて行ったことはないが……。
◇
気づくとパソコンの前に突っ伏していた。どうやら会議の後に眠ってしまっていたようだ。夢だったのか。なんとも情けない。
そういえば、今年は初詣も行けずじまいだった。毎年、社員全員でお参りしていたのに。
肝心の参拝ができていなかったなと思う。夢の続きでもいい。参拝がしたい。
コロナ禍の昨今は「オンライン参拝」という、なんとも新しい様式が登場している。さっそく太宰府天満宮のホームページを開いてみた。
「御神橋は、太鼓橋・平橋・太鼓橋の三橋からなり、それぞれ過去・現在・未来をあらわしています」
過去は振り返ってはいけない。
現在は立ち止まってはいけない。
未来はつまずいてはいけない。
そんな意味があるという。
「立ち止まってはいけない」
さっきの声がこだまする。今度はそうはっきり聞こえた。
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