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「え? 発熱?」
私は待ち合わせ場所で、スマホに耳を押し付けた。
『すまないな。熱を測ったら、39度もあったんだ』
「うーん。残念だけど、今日は中止した方が良いね」
待ち合わせスポットの忠犬マチ公像の前で、私はため息をついた。中学の同級生との待ち合わせ。楽しみにしていたのに。
セナは高校時代、私の一番の友達だった。頭が良くて才能にあふれる彼女は、高校卒業後、海外の大学へと進んだ。今日、久しぶりに日本に帰って来たのだという。
『楽しみにしてただろうに、すまないな』
宿泊先のホテルで横になっているのだろう。セナは申し訳なさそうに呟いた。
「ううん、しょうがないよ。それより、体調は大丈夫なの?」
『熱があるだけだ。だけど、うつすわけにもいかないからな。今日は1日、ホテルで大人しくしているつもりだが……』
セナは、その時ハッとして叫んだ。
『そうだ、これからオンライン同窓会をやろう!』
突飛なことを言い始めるのは、セナの中学生のころからの癖だ。
「オンライン同窓会?」
『うむ。君はこのまま観光地をまわるといい。私も、オンラインでそれを追いかける!』
つまり、このまま電話しながら、私が東京観光をするということだろうか。
「いいね、面白そう」
朝から電車を乗り継いで、この都会の真ん中の待ち合わせ場所までやってきたのだ。このまま帰るのももったいない。私は、セナの提案に賛成することにした。
オンライン同窓会。素敵な響きではないか。
しかし、その時の私は知らなかった。セナが魔法使いであることを。
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