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私は都内の人気のスイーツ店にやって来ていた。セナと一緒に来る予定で、予約していたのだ。店前に1人で現れた店員さんは変な顔をしていたけど、私をちゃんと席まで通してくれた。
『メニューを見せくれ!』
セナが話しかけてくる。
「ビデオ通話にした方が良い?」
『大丈夫だ。見えてるからな』
私は少し首をかしげながら、人気メニューのエンジェルパフェを注文することにした。
『じゃあ、私もそれにするとしよう。エンジェルパフェを2つだな』
私は首を傾げた。いくらオンライン同窓会とはいえ、食べられないものを2つ注文するのはいかがなものだろうか。私はパフェを2つも食べる胃袋を持ち合わせてはいない。残すのはもったいなさすぎるだろう。セナには悪いが、私は結局、やってきた店員さんに1つだけエンジェルパフェを注文した。
『おや? 1つしか注文しなかったのか? まぁいいか』
セナの声に、少し不満そうなトーンが含まれた。まもなく、注文したエンジェルパフェがやってきた。テーブルの上に置くと、私の眉のあたりまでイチゴとアイスがそびえたっている。大きなパフェだ。
『おお、すごいな』
セナが言った。
『じゃ、いただきまーす!』
ごっこ遊びのつもりなのだろうか。私は少しだけ寂しく笑った。彼女も残念がっているだろう。
その時である。レストランの机の上に、魔法陣が召喚された。薄黄緑色に発行する細やかな魔法陣は、ぐるぐると幾何学模様を描きながら回転し続けている。数秒後、魔法陣の中心に、ぽっかりと穴が開いた。
その中から、白くて細い腕が出てくると、エンジェルカフェをひょいと持ち上げて、そのまま魔法陣の中に消えていった。
魔法陣は消えた。
「……」
私はあまりのことに、スプーンを持ったままあっけにとられていた。目の前には何もない。まっさらなテーブルがあるだけだ。今のは何が起きたんだ。
『うむ、おいしい!』
セナの声が聞こえた。
『イチゴとチョコレートのハーモニー! さすが人気店なだけあるな。全部食べきれるといいんだが……』
「……」
私がフリーズしていることに、セナも気づいているようだった。
『そっちも頼むといい』
今度は空中に魔法陣が召喚されて、そこから指がにゅっと出てきた。指は店員呼び出しボタンを押したあと、ひっこんでいった。
なんてことだ。彼女なら、ピンポンダッシュを完全犯罪で成し遂げるに違いない。
「ご注文をお伺いします」
やってきた店員は、机の上に何もないことに首をかしげた。しかし営業スマイルを崩さず、私に話しかけてくる。
私は答えた。
「……エンジェルパフェ、もう1つお願いします」
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