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敗北したのは『猫』である。
彼女の手札はワン・ペア。負けが続いていたところに、最後の手札もあまりよくなかったらしい。大きく賭けに出たのが完全に裏目になった。
彼女の手元に映し出されたコインが全て消え、ゲームの終了が『マザー』によって宣言される。
こうなれば、当初の取り決め通り『猫』はこの世界から排斥されるだけだ。
『猫』の姿が薄らぐ。先ほどの賭けで右腕…右前足を失ったから立ち上がることもできない。頭を乱暴に振って暴れている。
「ああっ、苦しい、苦しい!
そんなはずはないのに、そんな感覚はとうにないのに…それでも苦しいっ。
未知が怖い、どうなるかわからないのが恐ろしい。こんなものを私たちはずっと忘れていた。――いや、いや、いやあぁっ!」
心からの悲痛な叫び。そうして、完全なる電脳空間からの消失。
…ごくり、と誰かが喉を鳴らした。全員がぎらぎらとした目で『猫』が消えた場所を見つめている。
消えた。我々の仲間である『猫』は永久に世界から消え去った。
そのことが残された五人の頭の中でぐるぐると巡った。
千年もの間、変わることのなかった円卓に空座ができた。それは、なんともいえない感慨をこの場に集まった者たちに与えた。これは、『酔い』に似ている。
目の前の、たった今起きたこと。長く苦楽を共にした仲間が、後戻りできない場所まで消え果てたこと。本当に死んだわけではない。人類は死なない。それでも、人類の『世界』からは消えた。
その叫び、慟哭。かつては当たり前であったものが、今また目の前にある。
次はまた、誰かが消えるのだろう。次は己が消えるのかもしれない。
彼らは『猫』の姿に酩酊した。それこそ、足元のおぼつかない酔っ払いのごとく。
「『マザー』、次なる賭けを」
「ああ、ゲームを続けよう」
やはり、円卓を離れる者はいなかった。
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