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宇宙がある。
煌めく星々、鮮やかな運河、尾を引く流星、そして全てを飲み込む暗黒星雲。
そこにぽつんと浮かぶ円卓が一つ。卓を囲むのは六つの影。
ここは電脳空間、現実から切り離された世界。見渡す限りの宇宙も投影でしかない。
『では、ベットの提示を』
厳かな声が辺りに響く。若い女の声だ。六つの影は身じろぎもせず次々に口を開いた。
「背骨」
「右足」
「脊髄」
「視神経」
「右肺」
「腎臓」
影たちの容姿は、見事にばらばらだった。そのどれ一つとして、人類として正しい姿はない。
人間の体に山羊の頭が乗っかった『山羊頭』。
円卓の上で丸まる『猫』。
のっぺらぼうの陶器人形『無個性』。
無数の泡が集まってぶよぶよ蠢く『不定形』。
様々な生き物の頭、腕、足が無秩序に生えた『合成獣』。
アニメ絵そのままに抜け出した兎耳メイドの『倒錯者』。
あえて彼らの共通点を挙げるのならば、この場に集まった誰もが体のどこかしらを損失し、今も生々しい傷口から赤い血をぼとぼと垂れ流していることぐらいか。それは『不定形』のような、生物的な形をしていない者ですら例外ではない。
『改めて賭けの内容を確認いたします。
舞台はネットショッピングモール、これより現場にウイルスを散布いたします。みなさまは、何人生き残れるかを賭けてください』
また、女の声。この声の主だけ円卓に姿はなく、その声は宇宙の遥か遠くから、あるいは耳元で囁くようにも聞こえてくる。
卓の上に巨大なディスプレイが現れる。映し出されたのは白を基準とした四階建ての電脳ショッピングモール。店舗数三百、店員、客含む現入場者数千人。卓を囲む者たちが「百」「十人残ればいいほうだろう」「ゼロだと面白いね」と数字を口にした。
『では、ゲームを開始いたします』
ディスプレイの中で、致死レベルのコンピュータウイルスの発生を知らせる警報がショッピングモール内に響き渡った。
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