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最後に
さて、なぜ例のあの人は僕に対してあんな態度をとってきたのだろうか。
ここ一年、話しかけても話し返さない。
ただ、僕の顔をじっと見ているだけ。
去年までは僕のことを鬱陶しそうに睨んでいたのに…。
その心境の変化はいったい何なのだろうか。
じっと見つめるあの目…。
流石にそんなことがずっと続くと、ストレスが溜まっていく。
だって職場の人にそんなことをずっとされたら、心が苦しくならないだろうか。正常な人間なら絶対に辛くて仕方がないはずだ。
けど…僕はあの目を知っている。どこかで見たことがあるのだ。
なんだろう。どこで見ただろうか。あれは何かを思っている時に非常に似ている。
そう…。何かを不審に思っているような…。
そうか! あれは疑心の目だ。
何かを疑っている目だ。間違いない。
では僕のいったい何を疑っているのか…。
ああ。心が苦しい。脳が割れるように痛いよ。
実は黙っていたが、僕は精神的な重い病気を患っている。
こんなことが続くと心が疲弊しすぎて、とてもじゃないが平常心を保っていられないよ。
そうだ。今年入ってきたあの人当たりのいい新人の女の子ならこの僕の荒んだ心を癒してくれるかもしれない。
今度あの女の子を誘ってどこかに遊びに行くのもいいかもね。
そしたらあの衝動に駆られることもなく、いつもの僕を演じられるはずだ。
あの衝動…。
あの衝動が起こってしまうと僕は理性を無くしてしまうのだ。
つい昨年もちょっとしたことであの衝動が抑えられなくて、職場に入ってきたばかりの女の子を……襲ってしまった。
その日はその女の子の誕生日だったので僕からプレゼントを贈ったのに。
けど、その女の子は喜んでくれなかったのだ。
僕は見た。「ああ…。気持ち悪い」と言ってロッカーに僕の気持ちの籠ったプレゼントを投げつけるところを。
殺して、海に沈めてしまうことしか頭に思い浮かばなかった。
だから例のあの人のあの態度も続けばあの衝動を抑えられなくなる。
今、ふと思ったのだが、例のあの人と海に沈めてしまったあの女の子の名字が一緒なことに気づいた。
これは偶然だろうか?
もしかしてく兄弟だろうか?
いや…そんなはずはない。
彼らが職場で話している所など一度も見たことがなかった。
いや…まてよ…。ロッカーで僕は例のあの人が去年殺した女の子のロッカーを漁っている所を見たことがある。
個人ロッカーのカギは個人で管理されているはずなのに、例のあの人は彼女のロッカーを開けていた…。
やはり…兄弟なのだろうか?
事務所の人間が近親者である彼に鍵を渡したのだろうか?
ああ。ダメだ。あの衝動が抑えられなくなる。
早く…例のあの人を殺さないと…。
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