押入れの貧乏神

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「この縁は、要らないよね」  時雨と同じ姿で、同じ声。だが結宇が彼らを間違えることはない。いま目の前に居るのは日和だ。 「妬みで染まった汚い縁だ。きっと結宇を傷つける。こんなものは、さっさと切ってしまったほうが良い」 「……切ったら、どうなるの?」 「さあね。縁を切った相手がその後どうなるかなんて、興味も無い」  何をそんなに怒っているのか。冷ややかに言い切る姿は、いかにも神らしい。だけど日和らしくはない。 「それは、ダメだよ」  縁を見据えているらしい日和の注意を引こうと、手を握る。 「日和さんは、ウチに居てくれるだけで良いの。だから、ダメだよ」  いまは拳を握る手が、じゃれつく猫を振り払えない優しい手だと知っている。正気に戻れば、人間の縁に干渉したことを後悔するに決まっているのだ。 「だけどあいつ、ユキさんのことまで!」  母親のユキが事故死したのは、結宇が小学校に上がる前だ。泣き続ける結宇を、日和は押入れに入れてくれた。結宇を抱きしめて、一緒に泣いてくれた。  そんな日和を、厄災を招く貧乏神だと思ったことは一度もない。 「大翔くんも、今頃自分の言葉に後悔しているよ。なんだかストレス溜まっていたみたいだし、ね?」  オンライン中心の仕事や授業に疲れて、心身を病む人間は多いらしい。大翔もそのひとりだ。願いを叶えてくれなかった神社を恨むことで、自分の心を守っていたのだろう。 「怒ってくれて、ありがとう。それで十分だよ」  だから大翔に何かする必要もない。  大翔ではなく日和のために、結宇は言葉を紡ぎ続けた。
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