押入れの貧乏神

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「この前厄払いを行ったご夫婦が、お礼参りに来てくれましたよ。ほら、祈祷の後に吐血したっていう」  医師の診断は初期の胃潰瘍。その原因はストレスだ。 「会社がすごいブラックで、いつ鬱病になってもおかしくない状態だったそうです。そうなる前に気づけて良かったと、奥さんが喜んでました」  時雨はいつの間にか、猫を連れて庭に出てしまったらしい。結宇は努めて明るい声で話を続けた。 「あと大翔くん、実家に戻るそうです。来年度の授業もオンラインだから、一人暮らしを続ける意味がないってことで」 「……なんで、あいつと連絡なんか」  ようやく聞こえた声は不満げだ。 「わたしじゃないです。彼のお母さんが、叔母さんの友人らしくて、その関係で。……縁って面白いですね。大翔くん、ウチでアルバイトをするかもしれないそうです」 「何をどうしたら、そんな話になるんだ?」 「さあ? 父に聞けば分かるだろうけど」  縁が見える神さまにも予測がつかないほど、人の繋がりというのは複雑怪奇であるらしい。  溜息をこぼす日和はいま、どんな表情を浮かべているのだろう?  早く顔を見せて欲しくて、結宇は日和と繋がる糸を指で弾いた。 終
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