バレンタインだからって浮かれてんじゃねぇッ!

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     〇 「みたいになんねぇかなぁ~」 「なるわけないだろ。どっかで聞いたぞ、そのシナリオ」  二月十三日、昼休みの教室。  椅子の背もたれに体を預けた友人と向き合って、私は小説を読んでいた。  ふと友人が先ほどのようなことを語りだしたため、耳を傾けていたが正直聞かなくてもよかったと今思っている。 「いやぁ、やっぱワ○ピースはすげぇよ。あんなに発行してるだけある。面白れぇもん」 「また夜更かしして漫画読んでたのか」 「なぜ分かったッ!?」  私は間抜け面をしている彼を見て、大きくため息をつく。再び小説に集中しようと試みた私であったが、当然のごとく彼はそれを許してくれないようだ。 「だってさあぁ! 明日はバレンタインだぜ? でも俺は生まれてからチョコなんてもらったことないんだよ! 妄想くらいさせろやッ!」 「勝手にやってろ」 「一人で妄想して何がおもしろいんじゃぁ」 「妄想は一人でするもんだろうが」  ホント、勘弁してほしい。  私は小説に目を落としながら、適当に続ける。 「だいたい、妄想というよりただのパクリだったじゃないか」 「はっはっはッ! それもまた妄想なり!」  私の言葉を受けた彼は打ちひしがれる様子もなく、逆に腕組みをして私に向かって渾身のドヤ顔を見せていた。  なんか腹立つ。 「悔しかったらお前もなにか妄想してみろぉ~! チョコを絡めてな」  彼は私にそう言い放った。  "悔しかったら"と言われたが、いったい私は何に悔しがればいいのか。正直なところ、よくわからない。しかし、このまま彼に勝ち誇った顔をさせるのは(しゃく)(さわ)る。  これは決して、悔しがっているわけではない。      〇
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