第二章

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 ◇◇◇  忙しくハサミを動かす白臣は、店内の空気がざわっと変化したのに気づいた。  本店ではよくあることだが、中野でもまったく起きないわけではない。ものすごい美形が入ってきたの独特の雰囲気。 「うわ……」  嫌な予感は的中した。入口でなにやら話している人影と、鏡越しに目が合う。すぐに目をそらしたが向こうの視線はずっと感じている。 「草園さん、ちょっといいですか?」  やがて予想通り、受付のアシスタントがやってきた。声のトーンを落として言いづらそうに切り出す。 「飛び込みの方で……あそこの怖いくらいのイケメンなんですけど……」  イケメンは白臣を指名したので、本日は予約がいっぱいだとやんわり断ったが、手が空くまでいつまででも待っているからとのことだった。  これ以上アシスタントを困惑させてもかわいそうなので、折れるしかない。 「まったく知らない仲でもないから、気にしないでそのまま待たせておいて」  それから白臣が声を掛けるまでの間、目まぐるしく働いている様子を面白そうに見ていた。まさに彼らの得意分野である観察をされているようだ。 「どうした、涅」 「あれ、僕だってバレてます?」 「正体を隠したいなら、もっとオーラを抑えてくるんだな」  一応人間に擬態をしたらしいが、もう少し見た目のレベルを下げることはできなかったのだろうか。  今まさにどこの芸能人かと、店内だけでなく、外からもこっそり盗撮しているやつがいる始末だ。 「白さんは、なんだか凡庸な容姿ですね。新鮮だな」  死神たちにくらべたら、どんな美男美女だって凡人に分類されてしまうだろう。 「まあ、人間姿もなかなか板についてるじゃないですか」 「板につくもなにも、人間だからな。今は」 「もう何回目でしたっけ。嫌にならないんですか? いい加減、玉湾様に降参すればいいのに」  白臣が幾度転生させられようが、涅たち死神にとってはたいした問題ではないはずなのに。ただものめずらしいだけだろう。 「何しにきたんだ? お前は」 「僕? スタイリストの白臣さんにカットしてもらいにきました」  勧めてもいないのにスツールにどっかり座ると、早くガウンを着せろと言わんばかりに、両腕を上にひらひらさせた。 「お前だったらそうするか?」 「え?」 「さっきの質問。お前なら、降参して玉湾のされるがままになるか?」  一瞬だけ不意をつかれたような涅だったが、やはりそこは死神、不敵な笑みを浮かべる。 「いいんじゃないですか、それでも。玉湾様って眺め飽きない美しさだし、それに」 「それに?」 「僕なら側にいて、いつか立場逆転狙いますけど」 「下克上ってことか」 「それくらい企まないと退屈でしょ、僕たち。白さんだって、あんなこまい人間に翻弄されるまでは、あの喫茶店で死ぬほど退屈だったんじゃない?」 「今の不二夫はそんなに小さくないが」 「そういう意味じゃないんだけどな……白さん、不二夫にこだわるの、もうやめたらどうですか?」 「こだわる?」 「言い方を変えましょうか。あの子に執着するのはなんでですか?」 「執着などしてない。ただ存在してくれればいいんだ。目に入るところにいる限りは見守りたい」 「だからなんで、たかが人間ひとりにそこまで特別な思いを抱くの? 確かに不二夫の魂ははじめっからおいしそうですよ。でも白さんはそういうのじゃないんですよね」 「不二夫には、助けてもらったから」
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