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「さすがにお腹空きましたね」
「そうだな」
昨夜はあのまま眠ってしまったから、なにも食べていなかった。
「簡単なもの、作ってきますね」
本当はご飯よりもずっと抱きしめていたかったが、空腹が限界なのも事実だ。
キッチンから聞こえる調理の音が心地よい。この時を守るためなら、きっとどんなことだって厭わない。
ベッドの横のローテーブルに温かいお茶を出してくれる。
その下に置かれたレシピやイラストが描かれたノート。ベッドの上のクッションの柄。どれも不二夫らしいものだと思った。
「散らかってるから……あんまり見られると、恥ずかしいです」
不二夫がトレーにどんぶりをふたつ乗せてきた。おいしそうな匂いに腹の虫が鳴る。
「お待たせしました」
「ありがとう。いただきます」
「どう、ですか?」
「……すごくうまいよ」
「よかった」
甘辛い味付けで炒めた豚肉とネギがご飯の上に乗っている。付け合わせのレンコンは青のりがついて、あっさりとした塩味だ。
味もおいしいが、不二夫が自分のために作ってくれたということが、ものすごくうれしい。
「こんなおいしいものが作れるなんて、すごいな」
「焼いただけですよ……もっと勉強するから、これからもたくさん食べてくださいね…………えっと、白臣さん?」
「俺は、不二夫にまたご飯を作ってほしいと頼んでも、いいのか?」
「あたりまえじゃないですか。一緒にいようって言ってくれたの、白臣さんですよね」
「ん?」
「えっと……ほら髪のこと、言ってくれたから……そういう意味なのかと…………」
だんだんと自信がなくなった様子で声が小さくなった不二夫に、またやらかしたと慌てる。
「そう! そういう意味だよっ! ……本当は結婚してほしいって思ってるくらいだから」
今度はぱちくりと目を見開いている。どうして、こうもスマートに表現できないのだろう。
「ふっ……く、ははっ!」
とうとう不二夫が大笑いを始めてしまった。
無理もない。不二夫の前では恰好よくありたいと思うのに、こんな情けない姿ばかり見られて、年上の威厳もなにもない。
「よかった……俺あんまり自分が好きじゃないときが多かったから、自信持てなくて」
「それなら俺が、今よりたくさん不二夫を好きになる」
だから自分を大切にしてほしい。悲しい思いはできるだけしないように。自分ができることは全力でする覚悟はある。
「ほんと、そういうのずるいですよ! モテまくってると思ってたのに、は……初めてとかいうし……」
「だって事実だから」
「俺も、白臣さんとするのが、初めてならよかったな……」
「いいんだ、そんなことはとるに足らないことだ」
今ここで思いが通じているなら、悩む必要はないと思うのだが。貞操観念とか、嫉妬などは白臣にはまだよくわからない。
「白臣さんて時々達観してますよね」
「そうかな」
「なんだか神様の金言を賜ったみたいに、救われるときがあります」
そもそも、ものの見方が人間とは違うのだろう。
変人だと思われることはあったが、ほめてもらうことはあまりなかったように思う。それでも不二夫がそう思ってくれるなら、この生き方をしてきてよかったと思える。
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