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ラフィとユイの母
「ユイちゃんとお母さんを助けたくて勢いで病院に来たけど…どうしたら良いのかな…病室もどこだか分からないし…」
病院を見上げながらシャイニーは呟きます。
溜息を吐きながら、ふと自分の左手に目を向けると、ラフィから貰った指輪がキラリと光りました。
「そうだ!ラフィ様!ラフィ様!」
シャイニーは指輪に呼びかけます。
「シャイニー、どうしたんだい?」
指輪から穏やかなラフィの声が聞こえました。
シャイニーはラフィにユイのお母さんが倒れた事、そして2人を助けたい事を話しました。
「なるほど…シャイニー。実はこの指輪は僕との通信手段だけではなく、他にも利用方法があるんだ。指輪に話しかけてごらん。君が知りたい事を答えてくれるよ。」
「指輪が答えてくれる…分かりました。僕、指輪に話してみます。」
「シャイニー、君ならユイちゃんとお母さんを助ける事ができるはずだ。頑張るんだ。」
「はい!」
シャイニーはラフィと話し終えると、指輪に話しかけてみました。
「指輪さん…ユイちゃんのお母さんが入院している病室はどこ?僕に教えてくれる?」
シャイニーが尋ねた瞬間、指輪が光を放ち一筋の光となりました。
その光はある病室へと続いています。
「きっと、あの部屋だ!」
シャイニーは、そう呟くとフワリと舞い上がり、窓からその病室に入ります。
病室のベットには、ユイのお母さんが寝ていました。
よほど、疲れが溜まっていたのか、グッスリと寝ています。
心なしか顔色も悪いようです。
シャイニーはお母さんの体に触れてみました。
「まだ、体は熱いみたい…」
シャイニーはもう一度、指輪に話しかけます。
「指輪さん…ユイちゃんのお母さんの熱が高いんだ。熱を下げる方法を僕に教えて…」
シャイニーが再び尋ねると、指輪は答えるかのように突然キラキラと輝き始め、指からスルリと抜け宙に舞い上がりました。
そして、暫く輝いた指輪はストンとシャイニーの手の平に落ちました。
シャイニーは、手の平の指輪を見て驚きました。
そこには、指輪ではなく宝石がキラキラと七色に美しく輝いていたのです。
「一体どうして…?」
シャイニーは暫く宝石を眺め考えました。
(指輪に願った途端に宝石に変わった…きっと、この宝石がお母さんの熱を下げるはず!)
シャイニーは、ユイのお母さんが眠るベッドに近づき、右手に宝石を握らせてみました。
お母さんの手の中で宝石は、穏やかに光ります。
光は何度か瞬きます。
瞬きを繰り返す度にお母さんの顔色は 少しずつ良くなり、熱も下がり始めたのです。
シャイニーは、ホッとして胸をなでおろしました。
そして、熱が完全に下がった頃、お母さんは幾度か身じろぎをして目を開けたのです。
その時、シャイニーはお母さんの顔を覗き込み様子を見ていました。
シャイニーと目が合ったお母さんは、驚き暫く言葉が出ず、ただただシャイニーを見つめます。
「あ…あなたは…どなた…?」
お母さんは、努めて冷静に尋ねました。
「僕が見えるの?僕は天使。シャイニーだよ。」
お母さんは、信じられないというように頭を左右に振りました。
「私は一体どうしたの?ここはどこ…?それに…天使って…シャイニー…え?シャイニー?」
お母さんは、混乱した頭を整理しようと必死でした。
「ごめんね。目が覚めて、突然僕を見たから混乱させちゃったよね…」
シャイニーは、申し訳なさそうにお母さんに言いました。
「あ!シャイニー!ユイの夢に現れた天使ね。それで、私は朝食を作ってる時に目の前が真っ暗になって…ああ…倒れたんだわ…」
お母さんは、ブツブツ言いながら頭の整理をしています。
シャイニーは、不思議そうにお母さんを見つめます。
「うん。だいたい分かった。私、倒れたから病院にいるのね?え~と…でも、どうしてあなたがいるの?ユイの側にいたのよね?それに、私は、なぜ天使の姿が見えるの?」
「えっとね…ユイちゃんにママの熱を下げて側にいてあげて…と頼まれたんだ。それから…あなたが、僕の姿が見えるのは…その宝石の力かもしれない…」
お母さんは、うんうんと頷きながらシャイニーの話を聞いていましたが、ふと自分の右手に目を向けました。
そして、その右手をソッと開いてみました。
手の平には虹色に輝く宝石が穏やかに、そして温かく光を放っています。
「とても綺麗な宝石ね…初めて見る宝石だわ…」
「この宝石があなたの熱を下げてくれたんだよ。もう熱はないでしょ?」
シャイニーの言葉にお母さんはハッとしました。
「本当だわ、体が凄く楽になってる。あなたのおかげね。ありがとうシャイニー。」
お母さんは、ニッコリとシャイニーに笑いかけます。
「ううん。僕のおかげじゃないよ。この宝石があなたの熱を下げたんだ。僕は願っただけだから…」
シャイニーの話しを聞いたお母さんは、ニコニコしながら言いました。
「やっぱりシャイニーのおかげよ。私の為に願ってくれたんだもの。」
シャイニーは、そんなお母さんの笑顔を見て嬉しくなりました。
(ユイちゃんの笑顔と同じだ…やっぱり親子なんだな~)
シャイニーには、ユイとお母さんの笑顔が重なって見えたのでした。
「シャイニー本当にありがとう。この宝石返すわね。」
お母さんは、宝石をシャイニーに差し出しました。
「この宝石は、あなたにあげる。その方がラフィ様も喜ぶと思うし…」
シャイニーの言葉を聞いて、お母さんが驚いたように目を見開きました。
「今、ラフィと言った?」
「うん。ラフィ様は何でも知っている天使なんだ。」
「ラフィ…懐かしいわ…」
お母さんは、何か考えながら呟きました。
「え?ラフィ様を知っているの?」
シャイニーが尋ねると、お母さんは大きく頷きました。
「ええ…私がユイくらいの年の時に、突然私の夢に現れた天使がラフィだったの。ずっと夢に現れていてくれたけど…いつからかパッタリ現れなくなったの。私が大人になってからの事よ。」
お母さんは、昔を懐かしむように話しました。
「ラフィは元気かしら?」
「うん。元気だよ。ラフィ様に会いたい?」
シャイニーはお母さんに聞きました。
「そうねぇ…会いたいわ。もう、ずっと会ってないもの…」
お母さんは、子供の頃の自分を思い出しているのか遠くを見つめながら言いました。
すると…突然、病室にそよそよと爽やかな風が吹きはじめたのです。
風は少しずつ強くなり渦となりました。
そして、その渦の中から美しい天使が現れたのです。
「やぁ…カオリ、久しぶりだね。僕の事を思い出してくれてありがとう。」
お母さんは、突然現れた天使に驚き呆然と見つめました。
「ラフィ様!」
シャイニーが、突然現れた天使に呼びかけます。
その呼びかけに、お母さんはハッとしました。
「あなた…ラフィなの?凄く立派になって…」
「そう…僕はラフィ。カオリ、君に会いに来たよ。」
「ラフィの姿が見える…昔は夢の中でしか会えなかったのに…これも宝石の力なの?」
「カオリ、それはね…君が握っている宝石と君の気持ちが共鳴したからだよ。だから、僕達の姿が見えているんだ。」
ラフィは、穏やかに微笑みながら言いました。
「私の気持ちと宝石が共鳴…」
「君は僕の事を思い出し、そして会いたいと思ってくれた。その宝石は僕達天使の願いがこもっている…僕達天使の願いは、君達人間が天使の存在を知り近くに感じてくれる事なんだよ。」
お母さんは、ラフィの話を聞くとハッとしました。
「その話…昔、ラフィから聞いた…」
「そうだよ。君がユイくらいだった時に僕は一度話してる。」
「ごめんなさい…ラフィ。私、すっかり忘れていたわ…大人になるって嫌ね…子供の頃の純粋な気持ちをすっかり忘れてしまう。子供の頃は、天使もいれば妖精もいると信じていたのに…いつから、そんな気持ちを忘れてしまったのかしら…」
淋しそうにお母さんは言いました。
「人間は成長とともに様々な情報が入り、本来持っている力を忘れていってしまうんだ。生きていく事も大変だから、目の前の現実でいっぱいになってしまうしね…それは仕方ない事なんだ。でもね…僕達天使の存在に気付き、頼る事で生きる事が楽になる。残念だけど、それを忘れてしまっている人間がほとんどなんだよ。」
「そうね…私も1人になってから、ユイを育てる事や生活を支える事でいっぱいになっていたわ。」
「カオリ、今からでも遅くない。僕達天使の存在をもう一度感じるんだ。君なら出来る。そして、僕達をもっと頼っていいんだ。そうすれば、君の心は楽になっていくよ。」
ラフィは、穏やかな笑顔でお母さんに言いました。
深く頷いたお母さんの目には涙が光っています。
涙は、どんどん溢れ頬を伝い落ちていきます。
「泣きたくないのに…涙が勝手に溢れてくる…」
「カオリ…君は、今まで本当に頑張ってきたね。でもね…君は少し頑張り過ぎてしまうんだ。辛くても決して顔に出さず前向きに頑張ってきた。少し、立ち止まり自分を大切にする事も必要なんだ。今回倒れたのは、自分の体を大切にしなさい…というメッセージ。分かるね?カオリ。」
お母さんは、涙を流しながらラフィの言葉に頷きます。
「カオリ…暫く涙を流してないね。泣く事すら忘れてたんじゃないかな?」
「うん…泣いている暇なんてない…泣いたら負けだと思ってきたから…」
「いいかい…カオリ。泣きたい時には泣いて良いんだ。無理矢理、悲しみに蓋をしてはいけないよ。余計に辛くなるから。泣くという事は、悲しみの感情を解き放つ事。泣く事で悲しみは癒される。蓋をすればするほど苦しく辛くなるんだ。」
「うん…私…本当に苦しかった…」
ラフィは頷くと言いました。
「もう我慢する事はないよ。思いっきり泣いていいんだ。」
ラフィは、そっとお母さんを抱き締めました。
おかあさんは、ラフィの胸で暫く泣き続けたのでした。
どれくらい時間が経ったのでしょう。
おかあさんは、顔を上げ涙を拭くと言いました。
「ラフィ。ありがとう。もう大丈夫。」
ニッコリと笑ったおかあさんは、とてもスッキリとした表情をしていました。
「うん。もう大丈夫だね。明日はユイちゃんに元気な顔を見せられるね。」
ラフィは、ニッコリと笑いながら言いました。
「シャイニー。おいで。」
ラフィは、2人の様子をジッと見ていたシャイニーを呼びました。
「シャイニー。君がユイちゃんに会いにいった事と、僕が昔カオリに会いに行った事は偶然ではないんだ。たまたま2人が親子だった訳ではない。分かるかな?」
シャイニーは、首を横に振りました。
「実は…シャイニーに渡した望遠鏡に僕は、ちょっとした細工をしたんだ。」
「細工ですか?」
「そう。君がユイちゃんを見つけるようにね。ユイちゃんはカオリに良く似ている。素直で純粋だから、シャイニーの存在も感じやすいと思ったんだ。」
「そうなんですか…ユイちゃん以外の人は、天使の存在を感じにくいのですか?」
「いいかい。シャイニー…僕達天使の存在を信じている人間は少ない。僕達の願いは、人間に天使の存在を感じ信じてもらう事…その為に僕達は少しずつ動き始めてるんだ。シャイニーだけではなく、他の天使も人間とコンタクトを取ろうと頑張っている。」
「そうなんですね。それなら、これから人間は天使の存在を知ってくれるようになりますね。」
「それが、そう簡単にはいかないんだ。僕達天使が、どんなにメッセージを送っても、なかなか気付かない人間がほとんどなんだ。だから、僕達の活動はとても時間が掛かる事なんだよ。」
「そっか…人間は、僕達の存在を感じるようになるのでしょうか?とても難しい事のように思いますが…」
シャイニーは、心配そうにラフィを見ました。
「シャイニーは、どう思うんだい?無理だと思うかい?」
シャイニーは少し考え答えました。
「とても難しい事だとは思いますけど…無理ではないと思います。」
「そうだね、シャイニー。無理だと諦めてしまったら、それで全てが終わってしまう。諦めず努力する事が大切なんだ。」
「そうですよね…僕も出来る努力をしていきます。少しでも多くの人間が天使を感じられるように…」
シャイニーは頷きながら言いました。
すると、2人の話を黙って聞いていたおかあさんが話しかけてきました。
「私…シャイニーのおかげで天使の存在を思い出したわ。」
シャイニーとラフィは、おかあさんを見ました。
「天使の事は、ずっと忘れていたけれど…シャイニーがユイの所に来てくれたおかげで思い出したの。ユイの話を聞いて凄くワクワクしたわ。ワクワクする気持ちもすっかり忘れていたのよね…」
「カオリなら、僕達天使の存在を思い出してくれると思ったよ。」
ラフィは、嬉しそうにおかあさんを見ます。
「あら?ラフィには、私が天使の存在を思い出す事がお見通しだったみたいね。」
「もちろん、僕には分かっていたよ。だから、シャイニーがユイちゃんの所に向かうように細工したんだ。」
「まぁ…ラフィ…いつの間に策士になったのかしら?」
おかあさんは、そう言って肩をすくめました。
「策士ではなく…て・ん・しだよ。カオリ。必要ならば天使も時には細工くらいするさ」
ラフィも肩をすくめます。
「まぁ…ラフィも昔はシャイニーのように素直で純真だったのに。」
「僕は、今でも純真さ。」
「まぁ…そういう事にしておいてあげるわ。」
ラフィとおかあさんは、はじけるように笑い合いました。
そんな2人の姿をシャイニーは見つめています。
(人間と天使も交流できるんだ…僕も、いつかユイちゃんと笑い合いたいな…そして、たくさんの人間が天使の存在を感じ、信じてくれるようになると良いな。)
「久しぶりに心から笑った気がするわ…私、今まで忙しくて心がガチガチだったみたい。またラフィに会えて本当に良かった…」
「君が望むなら、いつでも会えるよ。天使は、いつも人間の側にいるからね。」
おかあさんは笑顔で頷きました。
「そうだったわね…昔、ラフィが良くそう言ってたわ…ラフィ、シャイニー…私に大切な事を思い出させてくれてありがとう。私…きっと、これから生きていくのが楽になると思うわ。」
力強く言うと、おかあさんはシャイニーとラフィの手を握りました。
「カオリ…もう休むんだ。ユイちゃんが君の帰りを待ちわびているよ。今日は、ゆっくり休んで、明日は笑顔でユイちゃんの元へ帰るんだよ。」
「ラフィとシャイニーはもう帰るの?」
おかあさんは、ベッドに横になりながら尋ねました。
2人は顔を見合わせ頷きます。
「僕達は、明日帰る事にするよ。君がユイちゃんの元に帰る姿を見届けてからね。」
ラフィが横になったおかあさんの額に手をかざしながら答えました。
おかあさんは、ニッコリと笑うとスーッと眠ってしまいました。
「ゆっくり休むんだ…おやすみ。」
おかあさんは、穏やかな寝顔でスヤスヤと眠りました。
安心して眠るおかあさんの姿を、シャイニーとラフィは温かい眼差しで見つめるのでした。
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