告白日和。

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告白日和。

「――好きです」  木の陰からこっそりと除いた先。校舎裏で立つ二人の男女。  女は、学年の中でもカワイイと評判の友だち。  男は、私の大切な幼馴染。褐色の肌に釣り目で高身長。よく怖がられていたというのに。  彼はまんざらでもない様子で顔を赤らめていた。 「付き合ってください」  彼女がいつにも増して真剣な顔をして詰めよった。その手には手作りのチョコレートが握られていて。  しばらく見守っていたが、彼はどうやら受け取るつもりのようだった。  その声が聞こえてくる前に、私は背を向ける。  音を立てないように離れながら、そっと唇を噛んだ。  ――羨ましくなんて、ない。  ただ少しだけ胸が、ズキッ、と痛んだ。  二人から離れ、中庭に戻ってくると、隅っこに隠れるように置かれているベンチに座った。  そこでポケットに忍ばせていたチョコレートを取り出す。 「――……割れちゃってる」  丁度真ん中から3つに。現状を表しでもしているのだろうか。  苦笑しながら取り出して一つ、口に入れた。 「……甘すぎ」  我ながら料理が下手だ、と笑った。少しだけ零れた涙が風に吹かれる。 「――あんた、振られた?」  突然の声にハッと顔を上げる。そこにはキノコヘアの男子が一人、こちらを見降ろして立っていた。 「なんで」と聞き返せば、彼は笑いもせずに私の手元のチョコを指さす。 「渡すはずのチョコだったんじゃないの」 「……別に」 「まあ、いいや」  言いながらひょいっと私の割れたチョコを口に入れた。「ちょ、ちょっと」 私の制止なんて無視してさっさと飲み込んでしまう。 「なんだ」  彼は言った。 「普通にうまいじゃん」  風に吹かれて前髪が揺れ、隠れていた彼の目が露になる。綺麗な、だけどどこか鋭い目が、私をじっと見つめていた。  ふわりと笑った顔にそぐわない、猛禽類みたいに鋭い目。  2月14日。私はまた、恋を始める。
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