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「ハッ、知ってる知ってる。チカも一緒だから」
「はあっ?」
「チカはあっちの事務所で拘束中。一緒に帰してやるから、ちょっと時間貸して」
「……はぁ?」
ニヤニヤ笑いの星児さんがオレの肩をとどめる手が意外に強くて、そういやこいつ馬鹿力だったんだっけ、って余計なことを思い出した。ここは素直に従っておくか。
「……わかったよ」
しぶしぶうなずくと、拘束は嘘のようにするっと解かれた。そのままロッカールームに押し戻され、待つこと二十分ほど。その間、業務を終えたほかのメンバーはサクサクと帰っていった。今日はラストまで入っていたから、つまり、居残り状態にさせられたわけだけど。
「……なんなんだよ、ったく……」
ぼそりと不満をつぶやいたタイミングで、扉は開いた。
「悪いな、待たせた」
そうしてロッカールームから連れ出された店内の装いに、目を見開く。
「え、なに……え……?」
「オーナーの許可は得てるし、公認な」
「ま、まじで……」
得意げな星児さんのことばが夢のなかの音みたいに遠く感じる。
ついさっきまでバレンタイン装飾を取り払ってもとどおりになっていたはずの店内が、新たな装飾に彩られていた。バルーンやリボンなどをあしらった簡単なものだけれど、見栄えがよく豪華に見える。そしてででんと大きく、「チカ、おめでとう」の文字。
「これ……誕生日祝いってこと……だけじゃない?」
「正解。ようやくチカの望みが叶ったんだからな。オレらずっと見守ってきた身としては、盛大に祝ってやりたいわけ。まあ、発案者はオレじゃねえけど」
「僕だよ」
それまで視界に入っていなかった入口のそばに、おとなしそうでかわいらしめの青年が立っている。見たことがあるような、ないような。オレはスッカスカな脳みそを総動員して、相手をなんとか特定した。
「……奏音、さん……?」
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