1人が本棚に入れています
本棚に追加
*
綾の街へは新幹線で二時間くらいかかる。
新幹線を降りた僕はタクシーに飛び乗って、綾の住んでいるアパートの住所を言った。
程なく着いた綾のアパートを前にして、僕はどうしようかと戸惑った。
このまま綾のアパートの部屋のチャイムを鳴らせば良いのか。
それとも、電話をして「今、アパートの前まで来ている」と言えば良いのか……。
僕が考えていると、突然、綾の部屋のドアが開いた。
僕が驚いて近くの生け垣の影に隠れると、綾の部屋から誰かが出て来た。
――男だ。
男の顔は良く見えないが、体つきや服装から言って、男に間違いない。
何でもないような仕草で部屋のドアから出て、鍵を掛けると、そのままアパートの階段を降りてどこかへと行ってしまった。
僕は男の行動を呆然としながら見ていた。
*
僕はしばらくその場から動けなかったが、やがて踵を返すと、またタクシーに乗って駅まで行き、新幹線に乗って自分の住んでいる街へと帰って行った。
薄々気づいていたが、やっぱりそうだったんだ。
綾が自分に余所余所しくなったり、会おうとしなかったりした理由はこれだったんだ。
綾は浮気をしていたのだ。
いや、もしかすると、綾のアパートから出て来た男が本命なのかもしれない。
ショックを受けた僕はもう綾と会うこともオンラインで会うことも電話することもやめようと思った。
数日間、綾のことは忘れようと思って生活していたが、心の中のショックは日増しに募って行った。
――やっぱり、一度綾とちゃんと話をしてみよう。
僕は綾に連絡を取り、オンラインで今夜会えるか? と訊いてみた。
綾からは「大丈夫」という返事が来た。
最初のコメントを投稿しよう!