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ちょっと変わったアルバイト
「今日から、あなたにはこの子の身の回りのお世話をしてもらいます」
屋敷の女主人の脚の陰に隠れるようにしている男の子が、こちらをジット睨み付けている。
顔面蒼白というより、緑色だ。たぶん、光の加減でそう見えたのだろう。
この子は本当に生きているのだろうか?
何故かそんな疑問が頭をかすめた。
「あなたに守っていただくことはひとつだけ。決して地下の部屋には近寄らないでください」
「何かあるんですか?」
「………」
やばっ!睨み付けられ、慌てて男の子に視線を向けた。
「こんにちは」
「……」
だが、男の子はなにも応えない。
それどころか、嫌な物でも見るように冷たい視線を投げつけてきた。
なんでこんなバイト引き受けたんだろう?
大学で幼児教育を専攻しているので、実習のつもりで応募したのだが、数十倍の難関をすんなり通ってしまった。1日、3万円という破格のギャラに心を掴まれたという強欲さにちょっとだけ自己嫌悪。
「それじゃあ、こちらへ」
女主人に促され、後を付いていく。
通されたのは、大きな広い部屋だった。
1Kの私のアパートが、かなり貧弱に思える。
しかも、シャワールーム付き。
この部屋だけで十分に暮らして行ける。
「今日からしばらく、ここがあなたの部屋です」
「……えっ、住み込みですか?そんな話……」
「面接の時に言った筈です。それと、隣の部屋があの子の部屋ですが、勝手に入らぬよう気を付けて下さい」
「それでは身の回りのお世話が出来ないじゃないですか」
「心配には及びません。何か用事がある時は、ベッド脇のライトが知らせてくれます」
すかさずベッド脇へ視線を移した。
赤、青、黄色のライトが無造作に置かれていた。
赤は、ほっといてくれ。青は、至急部屋へ来い。そして黄色は危険が近づいてる。
1通りの説明をすると、女主人は部屋から出て行った。
赤と青の意味は何となく理解した。でも、黄色の意味って……
危険て、どういう事?
真夜中、隣の部屋からガタガタと大きな音がしたが、私は無視を決め込んだ。赤いライトが点いてたからだ。
翌日、私はお腹が減って目が覚めた。
昨日は身の回りの世話なんか何も出来なかった。
楽な仕事だ。
いや、これが仕事と言えるのか?
大学!
そうだ学校へ行こう。
その前に、少しだけ腹ごしらえしなきゃ。
ちょっと隣の部屋が気になり、チラッと一瞥したが、トントンと軽快に階段を下り、キッチンへ向かった。
テーブルには朝食が用意されている。
プレートには、トーストとハムエッグ。そして、入れたてのコーヒーが置かれていた。
あの女主人が用意したのかな?
キョロキョロ辺りを見回したが、彼女の姿は何処にも見当たらなかった。
私はコーヒーをひとくち喉に流し込み、与えられた部屋へ戻った。とりあえず大学へ行こう。
簡単に準備をして部屋を出て、玄関のドアを開ける。
だが、開かなかった。
と、車のエンジン音が私の耳に届いた。
すぐ横の小窓から外を覗くと、走り去る黄色い車が目に映った。
とりあえず外に出ようとドアノブをガチャガチャしたが、やっぱり開かない。
閉じ込められた?
何で?
私はスマホをポケットから出し、友達の侑里に……
『お客様のお掛けになった番号は、電波の繋がらない所にあるか、電源が入っておりません……』
「えっ?なんで?」
ここで圏外の表示に気付いた。
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